第12回全国大会ダイジェスト・レポート
2年ぶりの実地開催で“つくば”が沸いた
全国47都道府県の代表校が科学の力を競い合う
「第12回科学の甲子園全国大会」が2023年3月17日~19日の3日間、茨城県つくば市の「つくば国際会議場」と「つくばカピオ」で開催されました。各都道府県の予選大会には668校から7,870名の高校生が参加。今大会では、予選を勝ち抜いた各都道府県の代表校47校がそれぞれ6~8名のチームを組んで、科学に関する知識や技術、発想力を競い合いました。昨年はコロナ禍により筆記競技のみの分散開催となりましたが、2年ぶりに全国の代表校が一堂に会し、実技競技を含めたすべての競技が行われました。
アッピンの熱いメッセージに始まった「開会式」
3月17日に行われた開会式では、公式キャラクターの「アッピン」がステージに登場。「2年ぶりに、みんなに直接会えて嬉しい!細心の注意を払って、素敵な思い出をたくさんつくって!」と選手にメッセージを送りました。主催者である国立研究開発法人科学技術振興機構の橋本和仁理事長からの開会挨拶の後、開催地となる茨城県の榊原利至産業戦略部長と五十嵐立青つくば市長が、世界有数の研究開発拠点があるつくばに全国から科学好きが集まったことを歓迎し、選手たちの健闘を祈りました。開会式のメインとなる各代表校の紹介では、どの学校も応援メッセージや決意の入ったフラッグを掲げて、ポーズを決めたり手を振って他校に挨拶したりしていました。
開会式後、早速筆記競技が行われました。理科、数学、情報の分野から、習得した知識をいかに活用できるかが問われました。また、教科・科目の枠を超えた融合的な問題には、各校6名が総力戦で取り組みました。
振り子を使って振動現象の奥深さに触れる
大会2日目の実技競技①「にほんの振り子―連成振り子の物理―」では、振り子の実験を行いました。実験装置には、黄色い糸の先端に赤い球のついた振り子が2つ用意されました。選手たちはまず、2.00秒で1往復する振り子をつくるために糸の長さを計算。それに従って、実験装置の糸の長さを調整して、実際に周期2.00秒で動く振り子を2つつくりました。
こうして製作した2つの振り子を、ストローでつなげて連成振り子にしました。この連成振り子を使っていろいろな振動をさせ、2つの振り子が互いにどのように影響し合うかを観察。さらに、タブレットを利用して動画を撮影し振動の状況を詳細に測定しました。非常に繊細な実験だったため、振り子を丁寧に動かすこと、実験を繰り返して平均値をとることなどが求められました。また、環境の振動が結果に影響するため、実験机に不要な振動をさせないよう気をつけました。
実験が終わったら、解析です。タブレットで撮影した振り子の振動をコマ送りで見ながら、その動きをグラフにしました。右の振り子が大きく振れると左の振り子の振れが小さくなり、しばらくすると左右の振れの大きさが入れ替わる振動エネルギーのキャッチボールや、振幅が周期的に変わる「うなり」などが観察できました。実況解説の先生の「真剣なまなざしと、身振り手振りを交えながら仲間と協力する姿が印象的だった」という言葉の通り、選手たちの姿からは振動現象の奥深さを感じているのが伝わってきました。
自作した顕微鏡でいろいろな組織を観察
実技競技②「顕微鏡、自分で作れるってよ」では、顕微鏡に関する筆記問題の他に、与えられた物品を使って顕微鏡を自作しました。さらに、ネギ根端にある分裂組織のプレパラートを作成し、自作顕微鏡でフォーカスした画像をタブレットで撮影しました。
体細胞分裂画像を400倍で観察すると高得点が得られることから、ピント調節のための微動装置の製作が必要不可欠でした。そのために用意されたのは3種類の物品。シリンジは1ml 1本、5ml 2本の中から2本、チューブは柔らかいものか硬いもの、圧力媒体は空気または水が選べます。計12通りの中からチームで相談して最も適していると思われる組み合わせを選定し、チューブの長さなども考慮しながら製作に取りかかりました。
体細胞分裂の知識の他に、光学や圧力伝達等、物理学の基礎知識も総合して取り組むことが求められた競技でした。
実技競技の幕間には、科学の甲子園応援団を務める、吉本興業の芸人で科学コミュニケーターの黒ラブ教授から応援ビデオメッセージが届きました。また、長年、作問コーディネーターを務めた藤井春彦先生から、過去の科学の甲子園全国大会で行われた実技競技が紹介されました。特に、大会の名物となっている実技競技③は科学の知識に加えて発想力や思考力、実践力が求められるため、作問者でも驚くようなアイデアがこれまでにいくつも出されたと振り返りました。今大会に参加した選手たちにとっては、今後、実技競技を戦ったり、社会に出て問題解決したりする際のヒントになったことでしょう。
カート製作とプログラム開発でミッションをやり遂げよう!
問題が事前に知らされていた実技競技③「おかえりフックン船長―マイコン制御によるサンプルリターンカート―」では、各校ともに試作や試運転をして大会当日に臨みました。JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星のサンプルを持ち帰ったことになぞらえた競技で、自作のカートで宇宙空間に見立てたコースを航行し、小惑星からサンプルとしてクリップを持ち帰るミッションに挑みます。
選手たちは、事前に配布された部品・材料でマイコンボードを搭載したカートを製作し、自ら考えたマイコンボード用のプログラムによってカートを自律航行させました。マイコンボードとはプログラムを開発できるように演算装置やメモリが組み込まれたボードで、今回使ったものには「加速度センサー」や「磁気センサー」といったカートの航行に利用できる機能を持つセンサーが搭載されていました。これに、「超音波センサー」を加えて、カートを自律航行させました。
各校が会場でテスト航行を行う間、実況解説の先生が「環境が変わると地磁気が変化したりするので、会場でスムーズに航行できるように調整するのは案外に難しいのです。完走できるカートは5~6台かな…」とこの課題の難しさについて説明しました。実際、多くのチームがテスト航行の結果を受けて、パソコンを使って一生懸命にプログラムを書き換える姿が見られました。
いよいよチャレンジの時がやってきました。コース内に設定されたチェックポイントをどこまで通過したか、サンプルを持ち帰ったか、方向転換ができたか、ポールなどに触れずに行けたかなどによってポイントが加減算され、その合計得点で順位が競われました。チャレンジは各校1回限り。カートは自律航行する設定のため、出発してしまったら選手たちには何もできません。「上手くいってくれ」と祈るばかりでした。
この難しいチャレンジで第1位になったのは、愛知県代表の海陽中等教育学校でした。成績は、満点の120ポイント。航行時間は1分54秒でした。「今日のテスト航行は上手くいかなくて、何度もプログラムを修正しました。いざチャレンジになったら、スムーズに動いてくれました」とメンバー。実はカート製作を始めた頃に競技規定を勘違いしており、途中でプログラムからカートの設計に至るまで大幅な変更をしたそうです。この試行錯誤の中で、プログラムもカートも彼らの対応力も磨きがかかったようでした。
最後に、作問委員から「マイコンボードの性能的な制限や、時間的な制限がある中で、自分のアイデアを実現することの難しさを体感してもらえたと思います。この経験は、最先端研究や企業で商品開発に携わる際に必ず生きます」と競技の講評がありました。
~こんな一コマも~
実技競技③の競技中には、選手たちへのインタビューが行われました。「実地開催が嬉しいです!」「問題量が多かったり、過去問でも見たことのない問題が出されたりしましたが、仲間と協力して頑張りました」「物理学が現実の世界に生きているのを感じました」など競技への感想が話されました。さらに、3校の代表生徒が大会までのカート製作の取り組みをまとめた「プレゼンテーションシート」を基に実技競技③への意気込みを語り、チームメイトにエールを送りました。「プレゼンテーションシート」は大会後に代表校間で公開され、これを基に全校が大会を振り返る「セルフレビューシート」を作成しました。各校が工夫を凝らしたカート製作への取り組みが交流のツールとして活用されました。
優勝はアッピンのおかげ!!
神奈川県代表の栄光学園高等学校が5年ぶり2度目の優勝
3月19日には表彰式が行われ、神奈川県代表の栄光学園高等学校が5年ぶり2度目の優勝を果たしました。最初、優勝が信じられずに「アッピンのおかげ」と話していたメンバーたちですが、インタビューの中でその強さの理由が徐々に明らかになりました。「個人の力という点では他校にもっと強い人がいるかもしれませんが、このチームは仲もよくて共に頑張ってきましたからどこにも負けません」とキャプテン。ほかのメンバーからも「それぞれが優勝目指して必死に勉強しましたが、できるだけ放課後に残ったり、休日に公民館に集まったりしていました。この情熱が僕らの強さの秘訣です」といった言葉が聞かれました。将来の夢は、生物学の研究者から宇宙航空系の技術者まで様々ですが、8人が力を合わせれば大きなことを成し遂げられると気づいたことでしょう。5月には、米国でのサイエンスオリンピアドに日本代表として参加します。このチームのさらなる躍進が期待されます。
表彰式では、茨城県教育委員会の森作宜民教育長が「想定外の結果に対して原因を分析する。こんな状況にもワクワクできるようになったでしょうか。未来の科学者、技術者として大きく成長したことでしょう」と会場に問いかけました。また、永岡桂子文部科学大臣は「この社会で可能性を開き、課題を解決するには、皆さんのような若く柔軟な発想力をもち意欲的な人材が必要不可欠です。この大会を機に次のステージへと羽ばたいてほしい」と述べました。2年ぶりの実地開催で、仲間やライバルと直接会って互いを感じながら協力したり競い合ったりすることの楽しさと大切さを、改めて感じることができました。
~こんな一コマも~
開会式や筆記競技が行われたつくば国際会議場のコンコースには、協働パートナーや連携自治体、科学の甲子園OB・OG会などによる展示ブースが設けられました。今回は無人かつ静的展示のみという制約がありましたが、展示物を見ながらチームメイトや引率教員と語り合う姿や、冊子を持ち帰り、自席で熱心に読む選手たちの姿が見られました。次年度以降再び、選手たちが競技以外の場でも科学に対する興味・関心を深めたり、交流したりできる機会が増えていくことが期待されます。