第7回全国大会ダイジェスト・レポート
47の代表校が見せてくれた、チームワークと“科学の力”
「第7回 科学の甲子園全国大会」が、3月16日~19日に埼玉県さいたま市で開催されました。各都道府県代表の高校生等がチームで科学の課題に取り組み、交流を深めた大会の模様を、ダイジェストでお届けします。
過去最多698校・8725名が都道府県大会に参加
今年度から、さいたま市に開催地を移した「科学の甲子園全国大会」。過去最多となる698校・8,725名がエントリーした各都道府県選抜を経て、代表47校・361名が本大会に参加しました。
ソニックシティホールでの開会式では、各校の入場行進に続き、山形県立米沢興譲館高等学校2年の嶋貫太一さんと金子ののかさんが選手宣誓を行いました。嶋貫さんは「県大会以降、苦悩や喜びや感動があり科学がより好きになった。この場に参加できることに感謝したい」。金子さんは「応援してくださった方々の思いを胸に、正々堂々とさわやかに戦い抜く」とそれぞれ誓いました。開会式後には最初の種目となる筆記競技が実施され、各校6名が課題に取り組みました。
知識を活用する力が試された3つ実技競技
大会2日目は、サイデン化学アリーナ(さいたま市記念総合体育館)で3つの実技競技が行われました。
実技競技①は、「クラミドモナスと謎の粉末」と題した生物分野の課題です。クラミドモナスは単細胞の緑藻類で、2本の鞭毛を使って水中を移動し、光に反応して方向を変える光走性を持っています。生徒たちはまず、光の色や培養液中の陽イオンによる動きの変化を実験で確認し、考察を行いました。その後、クラミドモナスと粉末にした3種類の未知の藻類から光合成色素を抽出。薄層クロマトグラフィーを使って色素と藻類を同定する課題に取り組みました。実験結果はデジカメで撮影し、画像も評価対象となります。
生徒たちは3人チームで役割分担をしながら課題をこなしていきました。光走性の実験では、装置を製作し4色のLEDを別方向から同時に当てたり、1色ずつ当てて反応を確かめたりしながら動きを観察。撮影ではコントラスト差のある背景を選び、実験結果をわかりやすく伝えようと工夫するチームもありました。
実技競技②は「光と色とエネルギー」の競技名で、赤・黄・緑・青・紫の5色のLEDを題材にした物理分野の問題でした。LEDの発光に必要な最低電圧の測定、LEDが光を受けた時に生じる起電圧の測定、各色LEDを照射した際の蓄光シートの発光観察の3つの課題を通して、発光のしくみと、光と色とエネルギーの関係性を考察します。
生徒たちは自作した暗箱の中でLEDを発光させ、計測結果をもとにグラフを作成。鮮明な発光を確認するために、より暗い所を求めてテーブル下に潜り込むチームもあれば、起電圧の測定では、「ここは電圧が出て、こっちは出ないと思う」など、実験結果の見通しを立てながら作業を進めるチームもありました。また、LEDの照射時間を揃えるために、「口でカウントするより安定するから」と自分の脈拍を時計代わりに利用するシーンも見られました。
最後には、考察をまとめるチームでの活発な議論が、会場の各テーブルで見られました。
実実技競技③(事前公開競技)「はばたけ!コバトン~ワイヤレス給電はばたき機レース~」は、埼玉県のマスコット「コバトン」にちなんだご当地問題です。ワイヤレス給電用の「受電コイル」とモーターで動く「羽ばたき機」を60分間で製作します。続いて、機体をラインにつり下げ、予選レース30m、決勝レース40mのコースで羽ばたき機がゴールするまでのタイムを競う、会場となった体育館の空間を活用した競技です。
機体製作のポイントは、全体の軽量化と重量バランス、翼の往復運動を効率よく推力にする工夫です。また、コース上に2か所まで設置できる給電ゾーンをどこに置くか、給電時間をいかに短くできるかがレースを左右します。
予選レースの結果、上位8チームが決勝に進出。結果は、福井県立藤島高等学校が給電無しで一気にゴールし、見事優勝しました。生徒たちは、「決勝前の調整時間に、予選レースで破損した部品の調整をするなど、本番でのトラブルに備えていたことが勝利につながった」と振り返りました。
研究者が描くAIの未来予想図に生徒たちも高い関心
大会3日目には、第一線の研究者がAIをテーマに語る特別シンポジウム「“人工知能の時代”を生きるサバイバル術」が開かれました。
AIが生活のさまざまな場で利用されるようになったとき、人間にはどんなスキルが求められるかとの問いに、吉田直紀東京大学大学院教授は「新しい疑問や魅力的な問いを提案する課題発見力」、古澤明東京大学大学院教授は「変化に適応できる幅広い知識、基礎学力が重要」と明言しました。
野村有加氏はAI・ワトソンのソフトウェア開発担当者としての経験から、「チームで問題解決する力は社会に出てからも役立つ。自分の好きなことを大切にして進路を決めてほしい」と生徒たちにメッセージ。AIが未来社会の基盤になることは確実と語った山口高平慶應義塾大学教授は、「知識を活用して問題解決するような新しいAIを生み出すために、若い世代がどんどん研究に参加してほしい」と呼びかけました。
神奈川県代表・栄光学園高等学校が初の総合優勝
表彰式で主催者を代表してあいさつしたJSTの真先正人理事は、「この大会での経験を生かして、科学を中心にさまざまな分野で羽ばたいてほしい。JSTとしても、科学の甲子園およびジュニア大会を通じて、中学生・高校生を一貫して支援していきたい」と述べました。
大会を共催した埼玉県の奥野立副知事は、「自ら学び考え、新たな視座をつくりだす人材として、この大会から世界へ飛び出してほしい」と生徒たちへの期待を語りました。
来賓としてあいさつした文部科学省の新妻秀規大臣政務官は、「全国8,700名以上のなかから今大会に参加できたことを誇りに思ってほしい」としたうえで、「グローバルサイエンスキャンパスや科学オリンピック、サイエンスインカレなどの場を利用して、情熱と才能をさらに磨いてほしい」と呼びかけました。
筆記競技と3つの実技競技を合計した総合成績の結果、栄光学園高等学校(神奈川県代表)が優勝、第2位は広島学院高等学校(広島県代表)、第3位は筑波大学附属駒場高等学校(東京都代表)でした。
神奈川県代表として7回連続で全国大会に出場している栄光学園高等学校は、今回が初めての優勝です。今大会には、20名以上の参加希望者から校内選抜と県予選を経て、異なる得意分野を持つ8名のチームで臨みました。キャプテンの千吉良洋介さんは、「筆記試験には自信があるけど、実験系がやや苦手なチーム。準備期間には過去問題に取り組み、実技競技の対策もしてきました。大会ではみんなで助け合い、楽しめたことがよかったです」と振り返りました。
生徒たちからは、「経験をストックして僕たちに伝えてくれた先輩たちや、チームを助けてくれた仲間たちに感謝したい」「物理部顧問の塚本先生が、9番目の選手のようにサポートしてくれた」といったコメントもあり、代表チームを中心に学校全体で科学の甲子園に取り組んでいる様子を伺うことができました。なお栄光学園高等学校チームは、今年5月に米国で開かれるサイエンス・オリンピアド2018に日本代表として派遣されます。
次回、平成31年3月開催の第8回全国大会で、高校生たちがどんなチームワークを見せてくれるのか、さらに期待が高まります。
協働パートナーや地元生徒たちとの交流の場
都道府県大会への参加生徒数が過去最多を更新し、新たな開催地となった埼玉県さいたま市でも盛り上がりを見せた「第7回科学の甲子園全国大会」。表彰式終了後も、協働パートナーの実験ショーやブース展示、地元埼玉県立学校のお土産ブースや埼玉大学提供の研究室紹介コーナーなどが、代表生徒たちや一般来場者で賑わっていました。