国立研究開発法人 科学技術振興機構

第8回全国大会ダイジェスト・レポート

47の代表校が科学の知識×技術×チームワークを競う

「第8回 科学の甲子園全国大会」が2019年3月15日~18日の4日間、埼玉県さいたま市で開催されました。各都道府県大会の参加者数は第1回大会から増え続け、今回初めて9,000名を超えました。この厳しい選考を勝ち抜いた47校361名の高校生が、教科・分野の壁をこえた筆記競技と実技競技の課題にチームで挑みました。

47校の科学好き361名による集合写真
埼玉に集った47校の科学好き361名

最後の最後まで考え続ける科学的好きの選手宣誓

大会は開会式で幕を開けました。恒例の代表校入場では、香川県代表の「人間ジャイロ2輪車」や、新潟県代表の応援歌「ますらお」の披露など、短い持ち時間の中で学校や地域をアピールする演出が随所に見られました。選手宣誓を行ったのは、青森県代表弘前高等学校の2名。日常で起こるさまざまな現象を解明してくれる科学が大好きだとし、今大会でも科学好きな仲間と交流を深め、最後の最後まで考え続ける姿勢を見せたいと、科学への意欲を感じさせる選手宣誓をしました。開会式の後には、各校6名ずつで今大会最初の課題の筆記競技に挑みました。

選手宣誓をする青森県代表選手
選手宣誓
ステージ上でのチーム紹介
入場

幅広い地学の力が求められた実技競技①

2日目、会場をサイデン化学アリーナに移し3つの実技競技が行われました。まず、実技競技①では、各校3名が出場し、「地学ペンタスロン」と名付けられた競技に取り組みました。タイトル通り地学の5種競技で、岩石・地質、海洋、天文から出題されました。幅広い地学の知識や洞察力、思考力は、世界各地で被害をもたらす自然災害の原因を究明し解決するにも不可欠です。

47校は4つのグループに分かれ、時間を区切って5つの課題に取り組みました。最初の10分間でどのグループも、問題文を読んだり作戦を立てたりした後、課題1「地球の重さを求めよ」と課題2「震源を決定せよ」を始めました。この2つの課題は、100分間の競技時間内のいつ行っても良いのですが、課題3、4、5は指定された時刻に、それぞれのエリアに移動して、制限時間15分で実験をやり遂げなくてはなりません。

課題1では、机上に用意された3種類の岩石の密度を測定し、重力に関する方程式などを使って地球の核の物質を推定します。課題2では、地震波のグラフを読み解き震央と震源の深さ、発生時刻を求めます。

5つの課題で構成される実技競技1の会場の様子
実技競技①の会場の様子。4つのエリアに分けられ、それぞれの場所で課題に取り組んだ。
課題1に取り組む選手たち
課題1:岩石の密度を求めて地球の重さを求める
課題2に取り組む選手
課題2:作図して震源を突き止める

課題3「リップルを作成せよ」では、水槽内の砂地に、与えられた道具と条件でリップル(波状の模様)を作成します。海や川などで見られるリップルがどのような水の流れでできるのかを考えながら、選手たちはチリトリ、木の棒、うちわなど与えられた道具を使って水槽内に水の流れを起こします。“水に直接触れずにリップルを作成せよ”との問いでは、水槽を激しく振るなど、試行錯誤をする様子が見られました。リップルが出来たかどうかは、判定員が見極めましたが、時間内にリップルをつくるのはなかなか難しかったようです。

課題3に取り組む選手たち1
課題3:チリトリで波をつくる
課題3に取り組む選手たち2
うちわであおぐ!?
課題3に取り組む選手たち3
水槽ごと左右にゆすってみる
審判の判定を見守る選手たち
リップルはできているのか?

課題4「浅海波の速度を測定せよ」では、薄く長い水槽内で波を発生させて、その様子を撮影します。それをスローモーションで再生して、波の速さを測定します。課題5「恒星までの距離を求めよ」では、会場に設けられた恒星(模擬天体)を、異なる2台の望遠鏡で観察し、近くに設置された土星の直径をもとに恒星の年周視差を計算します。

課題4に取り組む選手たち
課題4:ストップウォッチと波を同時に撮影
課題5に取り組む選手たち
課題5:模擬天体を観測中

課題ごとに内容が大きく変わる上に、移動もあって見学者の目にも忙しく写る「地学ペンタスロン」でしたが、分担がうまくできたか、落ち着いて集中して取り組めたかが勝敗を決めたようでした。この競技を制した滋賀県代表膳所高等学校は、「得意分野と思ったのが3名それぞれにあったので、まずそれを突き詰め、残りの2問は協力して解きました。最初の3問で得点できたのが良かった」と勝因を語りました。

化学実験技術の高さが求められた実技競技②

実技競技②は「糖を問う」と名付けられた化学実験でした。一口に糖といっても様々な種類があります。この課題では、5つの未知の糖類溶液が何なのかを同定します。与えられた3種の実験によって糖の性質を明らかにしながら、考えられる糖を絞り込み最終的に1つに決定します。今回は、糖類溶液の比旋光度の測定、フェーリング液を使った還元性の有無の検証、薄層クロマトグラフィーを使った実験を行い特定しました。解説者からは、想像していた以上に実験操作ができていたと評価されていました。

実技競技2に取り組む選手たち
自分たちでつくった簡易旋光度計で旋光度を測定
実技競技2に取り組む選手1
フェーリング液青色が消え赤色の沈殿が生じたら
還元性のある糖だとわかる
実技競技2に取り組む選手2
薄層クロマトグラフィーに慎重に糖類の試料をのせる
実技競技2に取り組む選手3
薄層クロマトグラフィーで糖類は種類によって
どう移動するのか?

これまでの成果を発揮せよ!事前公開の実技競技③

実技競技③は、「ツール・ド・さいたま~ジャイロ2輪車レース」として全国大会の1ヶ月半ほど前に出場校に事前公開されました。参加各校は全国大会までの期間に十分な研究・工夫・練習を重ね、大会当日、決められた部品・材料と工具類などを使って60分間でジャイロ2輪車を製作し、レースを行いました。
手回し発電機で充電した電気二重層コンデンサを電源としたモーターを推進力とし、ジャイロ効果で倒れないよう走行安定性を保ちながら、予選30m、決勝33mのコースを走らせ、ゴールまでの時間を競い合います。レース時間には充電時間も含まれるので、発電機を回す充電時間と走行速度・距離のバランスも考えなくてはなりません。各校4名で臨みました。

ずらりと並んだ各チームのジャイロ2輪車
ずらりと並ぶジャイロ2輪車
手回し発電機で懸命に充電する選手たち
手回し発電機で懸命にチャージ中
ジャイロ2輪車とともに走り抜ける兵庫県代表選手
自作のジャイロ2輪車とともに伴走する選手たち
ジャイロ2輪車とともに走り抜ける伴走者

2回の予選レースに出場し、上位8チーム(長崎、福井、神奈川、岐阜、愛媛、山口、石川、岡山)が決勝に進出しました。激戦を制したのは、県立岐阜高等学校でした。
4名のメンバーは、「今、すごく嬉しいです。1カ月半前に競技の内容が公開されてから、たくさんの先生方に応援していただいてここまで来られました」。「しっかり練習を積んで、今日はベストを尽くしました。車体を軽くしたことが勝因だと思います」と語りました。

この競技は、プレゼンテーション・シートの事前提出も課題でしたが、岐阜高校のデザインは高評価を受けた3点のうちの1つでした。今回のジャイロ2輪車は、乾電池を電源としたモーターでCDを回転させジャイロ効果により安定性を確保し、2輪車の走行は電気二重層コンデンサを電源としたモーターで走らせる仕組みです。同校は、早く走らせるために走行時のジャイロ2輪車の軽量化を図りました。そこで、電気二重層コンデンサを手回し発電機で充電している間だけCDを乾電池で回転させ、スタート時には乾電池を取り去り、走行中はジャイロの回転し続ける力を利用し安定性を確保しました。これにより、走行時間を大幅に短くすることができました。ほかにもバランスがいい車体の長さや、充電時間の短縮化を検討したと言います。大幅な軽量化と、細部にまでこだわった丁寧な設計と工夫、正確な工作が勝利を引き寄せました。

勝利を喜ぶ選手たちとジャイロ2輪車
勝利を喜ぶ、レースに参加した4名とジャイロ2輪車
インタビューを受ける岐阜県代表の選手たち
競技中に車体についてインタビューを受けた
岐阜高校のチームメンバー

また、この競技には、昨年12月に開催された「第6回科学の甲子園ジュニア全国大会」で優勝した愛知県代表チームの中学生6名も参加し、健闘しました。

個人の能力の高さと全寮制が育んだチームワークで優勝、愛知県代表チーム

表彰式では、JSTの真先理事が、「共に考え、共に過ごしたこの時間と全ての経験が将来みなさんの財産になるはず」と選手たちの健闘を称えた後、柴山昌彦文部科学大臣が来賓挨拶に登壇。2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑先生の、「自分の目で確信がもてるまでやる」という言葉を紹介し、「科学者の卵である皆さんには、本庶先生のように好奇心をもって粘り強くチャレンジを重ね、その優れた能力を磨いてほしい」と激励しました。

総合優勝は、愛知県代表の海陽中等教育学校でした。同校の優勝は2016年の5回大会以来の2回目。また、2018年12月に行われた第6回科学の甲子園ジュニア全国大会では、同校の中学生チームが優勝しており、兄弟優勝という快挙を成し遂げました。

「後輩が優勝していたので、負けられないと思っていました」とキャプテンの兒玉さん。「科学の甲子園史上初の2回優勝、兄弟優勝という記録を打ち立てられたことが嬉しい」という喜びの声も聞かれました。強みについては、「科学オリンピックなどで活躍している先輩から刺激を受けて自分も頑張った」、「メンバーのそれぞれが得意分野を持っているので、自分も夢中になれることを勉強して力を付けてきた」、「特別な勉強をするというよりも、日頃からモノゴトを論理的に考えて行動するように心がけている」、などと話してくれました。個々人の能力の高さと、互いに尊敬しあいながら築かれたチームワークの良さが、同校を勝利に導いたと言えるでしょう。

優勝旗を受け取る愛知県代表チーム
あっぴんと記念撮影をする愛知県代表チーム
総合優勝おめでとう!愛知県代表チーム

優勝した愛知県代表の海陽中等教育学校チームは、今年5月31日から米国ニューヨーク州イサカのコーネル大学で開かれるサイエンス・オリンピアド2019に派遣されます。

第8回科学の甲子園全国大会を支援してくださった協働パートナー一覧
ご支援頂いた協働パートナーの皆様、ありがとうございました。

協働パートナーや地元生徒たちとの交流の場

「科学の甲子園全国大会」は、全国の科学好き高校生等が一堂に会する貴重な機会です。生徒たちが交流を深められるようにスワップミートが行われ、地元の特産品を交換したり、おしゃべりしたり・・・・。みんなはすっかり仲良くなっていました。

スワップミートでお土産を交換する選手たち

実技競技③で優勝した岐阜県代表チームに、他県の代表が「どんな車体か見せてほしい」と話しかけていました。

実技競技3で他の代表チームと交流する選手たち

大会3日目には、AI(人工知能)やゲノム編集など最先端分野で活躍されている4名の研究者をゲストに招いて、特別シンポジウム「ポスト平成時代の新イノベーション」が行われました。生徒たちが考えるイノベーションについて事前にアンケートが行われており、それを題材にイノベーションとは何かを改めて皆で考えました。イノベーションを起こせる人になるためにはどうしたらいいのか、それぞれが大きなヒントを得ることになりました。

4人の研究者を招いて開かれた特別シンポジウム
協働パートナーによる実験ショー
協働パートナーによるブース展示

表彰式の後、協働パートナーや地元埼玉県の協力で実施された実験ショーやブース展示では、「デジタル顕微鏡でミクロの世界を観察」したり、「科学の甲子園のOB/OG会」と交流したり、お土産ブースで埼玉県の専門高校の出展品を購入したり、と生徒たちは思い思いにリラックスしたひとときを過ごしていました。