国立研究開発法人 科学技術振興機構

第10回全国大会ダイジェスト・レポート

科学の絆をつないでいこう、途切れることのないように

「第10回科学の甲子園全国大会」が令和3年3月19日~21日の3日間、茨城県つくば市で開催されました。昨年3月に予定されていた第9回大会は新型コロナウイルス感染症のために中止となりましたが、今回は “科学の絆”の繋がりが途切れることのないように、効果的な感染防止対策をとった上で実地開催に至りました。制約の厳しい状況下でそれぞれに選抜された各都道府県を代表する47チームが”科学の街“つくばに集まりました。

参加選手全員での集合写真
47チーム、362名、つくば国際会議場に集合

新趣向の開会式

大会の幕開けとなる開会式も今大会では、例年行われている各チーム思い思いにアピールする入場行進が感染防止のため中止となった代わりに、司会者がコメントを読み上げる中、各チームは自席で立ち上がり、抱負や友達の応援メッセージが入ったフラッグを掲げてチーム紹介が行われました。全員同じポーズをとってチームの仲の良さをアピールしたり、大会イメージキャラクターのアッピン好きを伝えたりと、各チームの個性と思いが伝わる開会式となりました。また今大会より3年間全国大会の開催地となる茨城県から、伊佐間 久 茨城県産業戦略部技術振興局長の、つくば市からは五十嵐 立青 市長の応援メッセージがスクリーンで紹介されました。

チーム紹介でキメポーズを決める選手たち
チーム紹介でキメポーズ

筆記競技

大会初日開会式に続いて行われたのは筆記競技です。物理、化学、生物、地学、数学、情報の6分野の問題に各チーム6名で取り組み、それぞれの得意分野を活かして協力しながら、科学的な思考力が問われる問題に挑みました。

実技競技①プログラミングの威力を知る

大会2日目は、実技競技の日です。例年であれば観客からの声援や拍手があふれる会場ですが、今回は無観客での開催となり、応援に回った生徒や引率の先生方が2階席から静かに見守ります。競技の様子はYouTubeおよび Vimeoでインターネット配信され、競技問題の実況と解説、公式Twitterのツイートと写真で臨場感を持って伝えられました。

実技競技①「Challenge-18」は、様々な思考力が問われる情報の課題で、素数、暗号、部分文字列など10のカテゴリーから18の問題が出されました。選手たちは提供された2台のパソコンを使ってプログラムをつくることができる環境で競技に挑みました。問題は、音符と数字を用いた暗号を解読し符号化する法則を発見する「ドレミ暗号」のような、人が論理的思考と直感を用いて解く問題が出題される一方で、「2021を3つの素数の和として表す方法は何通りあるか」というプログラミングが威力を発揮する問題も出題されました。シンプルないくつかの命令を組み合わせて有限回繰り返すことで、かなり複雑な問題を解くことができるというプログラミングの有利性を実感してほしい、また一方で人が得意とする思考がどうあるのかを理解してほしい、そういった出題者の意図が込められた設問になっていました。選手たちはどのように問題を解くか判断する力、プログラムをつくる力、チーム3人で分担する力を発揮して100分間で全問解答を目指しました。

実技競技1に取り組む選手たち1
実技競技1に取り組む選手たち2
実技競技に取り組む選手たち3
実技競技1に取り組む選手たち4
実技競技1に取り組む選手たち5
実技競技1に取り組む選手6

パソコンに解答を入力すると瞬時にサーバーで正解・不正解が判明し、自動的に採点・順位付けされます。その上位10チームの順位状況がスクリーンにリアルタイムに表示されることで競技性が高まります。難易度と配点の異なる18問をどの順番で解くかも上位を狙うための戦略となったため、順位は何度も入れ替わり、応援する生徒たちもスクリーンに見入ります。制限時間内に2校が満点を確定。そのうち順位決定問題を先に解いた筑波大学附属駒場高等学校(東京都代表)が1位、僅差で2位となったのは、初出場の愛知県立旭丘高等学校(愛知県代表)でした。予想を上回る好成績に出題側は驚きを隠せません。

観客席の仲間にアピールする東京都代表チーム
「やったぞ~」、観客席の仲間にアピール 東京都代表
制限時間内に満点を確信しガッツポーズを決める愛知県代表チーム
制限時間内に満点を確信しガッツポーズ 愛知県代表

実技競技②正確性を求められる滴定実験

実技競技②は、「Xの正体を暴け!」と題した化学実験で、ビタミンCとして知られるアスコルビン酸と未知の有機酸Xの混合試料からXが何かを滴定によって突き止める問題です。滴定とは、濃度未知の試料溶液をすでに濃度がわかっている溶液と反応させ、濃度未知の試料溶液の濃度を決める定量分析の実験操作です。基礎的な化学実験ですが、正確に行うには、ビュレットやホールピペットといったガラス器具の扱い方や、反応が終わったことを知らせる指示薬の劇的な色変化に対応するなど細かな注意が必要です。

今回は、有機酸Xを突き止めるために3種類の滴定を行いました。さらにこの3種類の滴定結果の正確性を高めるために、それぞれを3回行うことが求められました。合計9回の滴定を100分の制限時間内に3名でどのように分担して正確に行うかがポイントです。最終的には濃度を求める計算をし、未知の有機酸Xの構造式を推定します。

化学の実験前準備1
化学の実験前準備2
化学の実験前準備3
実験競技②の実験前準備
試料を正確に測り取る選手1
試料を正確に測り取る選手2
試料を正確に測り取る
測定を行う選手1
測定を行う選手2
測定を行う
色が変わる瞬間を見逃さないよう注視する選手1
色が変わる瞬間を見逃さないよう注視する選手2
色が変わる瞬間を見逃さないよう注視する選手3
測定で色が変わる瞬間を見逃さないように

この競技で1位となったのは 北海道旭川東高等学校(北海道代表)、2位は 久留米大学附設高等学校(福岡県代表)でした。

2位の福岡代表チームの実験風景
1位の北海道代表チームの実験風景
実技競技② 1位北海道代表と2位福岡代表の実験の様子

実技競技③シャトルウィンドカー~逆風を追い風に~

実技競技③の「シャトルウィンドカー~全集中!科学の呼吸~逆風を追い風に」では、各チーム4名がシャトルウィンドカーを製作しレースを行います。シャトルウィンドカーの基本構造は次の図の通りで、送風機構から出る風だけの場合(図の反転機構がない状態)では緑矢印の方向に進み、適切な形状や構造の反転機構を付ければ赤矢印の方向に進むため、往復させることができます。
この競技は事前公開競技として、2月に課題が公開されるとともに材料も各校に送付されました。選手たちは準備期間を使って、仲間と知恵を出し合い、豊かな発想を基に、設計及び試作など試行錯誤を重ねてきたのでしょう。大会当日を迎え、各チームは自信に満ち溢れていました。

シャトルウィンドカーの基本構造
チームで協力して制作する選手たち
工具を使って部品を組み立てる選手
制作に必要なパーツを準備する選手たち
小さなパーツにも工夫を凝らす選手
工夫を活かして制作する選手たち1
工夫を活かして制作する選手
工夫を生かして制作に集中

シャトルウィンドカーは、幅60㎝、長さ60㎝内に収まるサイズで、重量の制限はありません。モーターは2種類与えられ、いずれか1つを選択します。自作ファンとモーターで作られた送風機構は、ウィンドカーに固定され、その位置と角度は、上下・左右・前後へ変えることはできません。求められる性能は、3つです。1)送風機構からの風向とウィンドカーの向きを変えずにコースを往復できること。そのために、送風機構とは独立した反転機構を装備し、往路では送風機構のみで、復路ではそれに加えて反転機構を機能させ、走行すること。2)荷物は10g以上で、指定された材料を使って4個まで作ることができ1個搭載して運搬できること。3)自作ファンをはじめ各部品が外れた場合などを想定し、十分に安全の確保ができていること。その条件の中で、決められたレース時間内でスタート・ゴールエリアとリターンエリアを、「荷物なし」と「荷物あり」でそれぞれ1往復、合計2往復し、2往復にかかったトータル時間と運んだ荷物の重量から求められる合計得点を競う予定でした。

自作カーの走行を真剣な眼差しで見守る選手たち1
自作カーの走行を真剣な眼差しで見守る選手たち2
自作カーの走行を真剣な眼差しで見守る選手たち3
レース結果に喜ぶ選手たち
レースに臨む緊張の時

ところが、この競技中盤に地震が発生したため、安全を最優先して1レースのみの実施となり、その得点で順位を決定することとなりました。万全の状況とはいえませんでしたが、すべてのチームが健闘し、7チームが同点1位となる大接戦となりました。

製作のポイントをインタビューで語る

競技と並行して、3チームにシャトルウィンドカーの設計ポイントについて紹介して貰うインタビューもありました。「8名で力を合わせて、一人では思いつかないものを完成させました!」と、帆型の反転機構を設計した栃木県代表。「流体力学を徹底的に研究した成果が詰まっている」のはダクト型の反転機構を設計した千葉県代表。風車駆動型で「速くではなく力強く回るように風車の形状を工夫した」京都府代表など、それぞれのアピールポイントを説明してくれました。

インタビューで工夫点を紹介する栃木県代表の選手たち
インタビューで工夫点を紹介する千葉県代表選手
実技競技③ インタビューで工夫点を紹介するチームメンバーたち

表彰式と優勝記者会見、京都府立洛北高等学校が初優勝

最終日3月21日の表彰式ではスクリーンを通して、茨城県教育委員会の小泉元伸 教育長は、「人々の生活を豊かにし、産業振興に貢献する科学にみなさんが興味をもっていることを嬉しく思います」と語り、萩生田光一 文部科学大臣は、「皆さんがチームで力を合わせて一生懸命競技に向き合い、全国の科学好きの仲間と競い合ったことは、かけがえのない経験になったことと思います。また、新型コロナウイルス感染症に伴う様々な制約がある中で、本大会へのチャレンジを決めた生徒の皆さんや御支援くださった先生方、関係者の皆様の本大会に対する思いや熱意に、深く敬意を表します」、と大会に参加した生徒の今後の活躍に期待を寄せ、関係者をねぎらいました。

続いて、各競技の成績優秀チームと総合成績が発表され、各チームの代表が登壇、表彰が行われました。総合優勝を果たしたのは、京都府立洛北高等学校(京都府代表)。第2位に渋谷教育学園幕張高等学校(千葉県代表)、第3位に初出場の静岡県立浜松北高等学校(静岡県代表)と続きました。

ステージ上で優勝旗とトロフィーを掲げる京都府代表チーム
会場に勢いよく舞い上がる銀テープ

表彰式後に行われた優勝記者会見では、京都府立洛北高等学校の各メンバーが優勝の喜びとチームの強さの理由を話しました。「まだ優勝の実感がわきません」、「全国から集まった優れたメンバーの中で優勝でき、表彰式では感極まって涙が出てしまいました」、と優勝に驚きを隠せないながらも、「中高一貫の学校で5年間生活をともにしてきた中で培われたチームワークが僕たちの強みです。京都の友達には“優勝してくるから”と言って来ました」、とサブキャプテンはチームの強さに自信をのぞかせました。

あっぴんと記念撮影をする京都府代表チーム
優勝記者会見 京都府代表生徒

優勝した京都府立洛北高等学校チームは、今年5月にオンラインで開かれるサイエンス・オリンピアドに日本代表として出場します。「今大会でチームを解散してしまうのは寂しいと思っていたので、オンラインとはいえ、サイエンス・オリンピアドへの参加権を得られたことはうれしい」と語る、チームの躍進が楽しみです。

第10回科学の甲子園全国大会を支援してくださった協働パートナー一覧
応援していただいた皆様、ありがとうございました。

第11回科学の甲子園全国大会は、令和4年3月再び茨城県つくば市で開催予定です。