国立研究開発法人 科学技術振興機構

第13回全国大会ダイジェスト・レポート

5年ぶりに戻った家族や友人らの声援
全国47都道府県の科学好き高校生が“つくば”に集結

「第13回科学の甲子園全国大会」が2024年3月15日~18日の4日間、茨城県つくば市の「つくば国際会議場」と「つくばカピオ」で開催されました。各都道府県の予選大会には、704校8,042名の高校生らが参加。予選を勝ち抜いた各都道府県を代表する47校が、それぞれ6~8名のチームを組んで科学に関する知識や技術、発想力を競い合いました。新型コロナウイルス感染症拡大により中止となっていた一般観客席が5年ぶりに再び設けられ、選手たちは家族や友人らの大きな声援を受けながら熱い戦いを繰り広げました。

科学好き375名が全国から集結

各校思いっきりアピールした「開会式」

開会式は、司会者の「第13回科学の甲子園」に続いて、みんなで「全国大会!!」と叫んで開会しました。メインとなる出場校紹介では、チームフラッグを手に全員でステージに登場。思い思いのポーズを決め、「頑張るぞ!」「お~!!」と意気込みを爆発させる姿が印象的でした。

各都道府県を代表して思い思いのポーズを披露

主催者である国立研究開発法人科学技術振興機構の橋本和仁理事長の挨拶の後、開催地である茨城県の大竹真貴産業戦略部長と五十嵐立青つくば市長が全国から集まった科学好きを歓迎し、「将来は世界有数の研究開発拠点のあるつくばで活躍してほしい」とラブコールを送りました。

選手宣誓では石川県代表の選手2人が、1月1日の能登半島地震を経験して「私たちが何の憂いもなく生活し、教育を受けられることは決して当たり前のことではない」と気づいたとして、今大会の奇跡のような時間を存分に楽しみ、未来につなげていくと誓いました。

選手宣誓を行った石川県代表選手

早速行われた筆記競技では、開会式で小浦節子審査委員長が「今回も練りに練った問題を用意しましたので、最後まであきらめずミラクルを起こしてほしい」と述べたように、習得した理科、数学、情報分野の知識をいかに活用できるかが問われました。教科・科目の枠を超えた融合的な問題に各チーム総力戦で取り組みました。

6名で分担、相談しながら難問に挑む

「アッピン地質ワールド」を駆け回る

大会2日目の実技競技①では、つくばカピオのアリーナに岩石(地層)が露出した海岸をイメージした「アッピン地質ワールド」が出現。選手たちはこの場所で地学分野に関する3つの課題に挑みました。

会場に現れたアッピン地質ワールド(上)と
その地形図(下)。A~Fは露出した地層を示す

地層に縞模様が現れるのは、それぞれの層をつくっている堆積物の種類や大きさが違うからです。地層ができる時には水底などにほぼ水平に堆積しますが、その後、地殻変動などで地上に現れる時には断層やしゅう曲を伴います。そこで1つ目の課題では、クリノメーターを使って海岸に露出している地層(A~F)の向きと傾きを計測し、アッピン地質ワールド全体の地層の広がりや地質構造を把握しました。

慣れない計測機器で地層を測定する選手たち

2つ目の課題は、AR (Augmented Reality:拡張現実)を使って実際にあるトンネル内部の地層を観察し、粘土で地質構造の模型を製作することです。この課題の難しさは、普段とは違った視点から地層を観察して製作する模型をイメージしなければならない点。選手たちが知恵を絞りながら地層をイメージする姿に、実況解説をしていた先生からも「アプローチの違いに思わず見入ってしまいますね」といったコメントが聞かれました。

タブレットによりARを使ってトンネル内部の地層を観察
3色の粘土でトンネルの地質構造の模型を製作

3つ目の課題は、地質ワールドで採取できる礫(岩石)の標本製作。礫を互いに打ち付けてみたり、濡らしてみたりして砂岩、石灰岩、閃緑岩などの違いを見分けようとしていた選手たちですが、6種類すべて揃うまでチャレンジし続けなければならないため、何度も採取場と検定所を往復する姿が見られました。真剣な表情で観察・測定・記録・採取をしながら選手たちがアッピン地質ワールドを歩き回る様子は、さながら地質学者のようでした。

岩石を採取する真剣な眼差しと、
岩石標本検定所での緊張の瞬間

「手のひらの金属鉱山」でいろいろな金属に触れる

実技競技②「手のひらの金属鉱山」は、鉱山開発が古くから盛んだった茨城県にちなんだ化学のご当地問題。今回は、未知の物質に既知の物質を混ぜて反応させることで未知の物質に何が含まれているかを明らかにする「定性分析」という手法を使って、試薬と金属の正体を突き止める課題でした。

チームで作戦を話し合う選手たち
点眼ビンの試薬をほんの少しずつ出して、
爪楊枝でよくかき混ぜて反応させる

選手たちの手元に用意されたのは、6枚の金属板と金属イオンが含まれている14種類の試薬。通常「定性分析」をする際には既知の物質がありますが、今回は試薬も金属板も何なのか知らされませんでした。もし14種類の試薬を単純に2種類ずつ混ぜた場合、91通りの実験をすることになり、これでは100分の競技時間では到底終わりません。そのため選手たちは、これまでの経験や配られた資料からわかる知識を総動員して実験を進めなくてはなりません。例えば、金属板を色や重さ、柔らかさなどからその正体を推定することで、実験を始めるためのとっかかりを自分たちで見つけていくのです。

匂いや色など多様な感覚を駆使して正体に迫る

そして、最後の問題では、14種類の試薬と6種類の金属板の正体を突き止めるためにどのような実験をどのような順序で行ったのかをまとめて、自分たちが至った結果について改めて考察しました。選手たちは、競技時間の中でいかに少ない情報で特定することができるか、戦略を立て、得られた情報を共有し、実験手順の再構築を繰り返していました。また、確証を得るために資料集などを駆使してエビデンスを集めるなど、それぞれが役割を分担、連携し、一つの結果へと力を合わせる姿がこの問題の醍醐味です。そして、こうした丁寧な実験の積み重ねによって大きな成果が得られるのだということに気づかされる競技でした。

バルーンフェスタ in つくば

恒例の事前公開競技である実技競技③には、2023年12月に開催された「第11回科学の甲子園ジュニア全国大会」で優勝した香川県代表チームの6名が特別参加しました。今回は、制限時間内に決められた材料で製作した熱気球に、決められた時間・方法で熱風を入れ、滞空時間を大会当日に示された目標滞空時間の範囲内に近づけつつ、できるだけ重いおもりを載せられるかが課題でした。各チームは、戦略の立案、それに基づく機体製作の練習、試作機での試行やデータ収集・分析を積み重ね、大会本番に臨みました。

製作時間開始のアナウンスとともに、事前に考えた設計図に合わせて2枚のサバイバル(アルミ蒸着)シートを裁断し、セロハンテープで繋ぎ合わせていきます。全チームとも事前の練習で培ったノウハウやチームワークを存分に発揮し、60分の制限時間内で熱気球を完成させ、熱風を入れての試行も行っていました。材料はシンプルですが、その大きさや形はもちろん、熱風を吹き込む時間や載せるおもりの量、気温なども滞空時間に影響するため、当日の条件に合わせて的確かつ素早い判断が求められましたが、事前に収集・分析したデータを基にシミュレーションを行い、予選チャレンジに備えていました。

さまざまな形をした熱気球が完成し、
最終調整をする選手たち

2回の予選チャレンジ後、成績上位16チームによる決勝チャレンジが行われました。予選時と異なる目標滞空時間の範囲が設定されたため、各チームはそれに合わせたおもりの量の再計算などに追われましたが、16機の熱気球が一斉にアリーナを埋め尽くす様子は壮観でした。

決勝チャレンジで一斉に浮かび上がった
16チームの熱気球

この競技で見事第1位となったのは、福井県代表の福井県立藤島高等学校でした。ステージ上でのインタビューでは、「課題が発表されてから2カ月間、アシスタントを含む9名で頑張ってきたので、この結果はものすごく嬉しい!」と口々に話しました。さらに、体積や空気抵抗を考慮して熱気球を設計したのはもちろんのこと、シミュレーションを使っておもりの重さや気温が変化しても対応できるように検討していたとも話してくれました。こうした緻密な設計とシミュレーションによる検討が好成績を引き寄せたのでしょう。

最後に、出題者から「熱気球は計画通りに動かなくて大変だったと思います。社会に出たら、そのようなことはよくあります。そのときに拠り所となるのがデータです。データを使えばシミュレーションで予測できるからです」と今回の競技で学んでほしいポイントが伝えられました。

優勝おめでとう!
神奈川県代表の栄光学園高等学校が史上初の2連覇

3月17日には表彰式が行われ、神奈川県代表の栄光学園高等学校が科学の甲子園史上初の2連覇を成し遂げました。昨年は、優勝が信じられずに「アッピンのおかげ」と話していましたが、当時のメンバーが2年生として3人もいたこのチームは、非常に強かったのです。1年生の選手たちは「去年の優勝チームに憧れていたので、こうして参加できたことが本当に嬉しい」「強い先輩と同期がいるから勝てました。仲間に感謝しています」とチームとしての強さを語りました。キャプテンも「まず、筆記競技で1位をとれたことが大きいと思っています。このチームは、国際生物学オリンピックや国際化学オリンピックに出場するようなメンバーがいて、それぞれの能力がとても高いのです。でも、協力し合うことでもっと強くなります」と振り返りました。5月には、米国で開催されるサイエンスオリンピアドに日本代表として参加します。2度目の参加となるメンバーがいるこのチームがどんな活躍を見せてくれるか楽しみです。

2連覇おめでとう!!神奈川県代表の栄光学園高等学校

表彰式では、茨城県教育委員会の森作宜民教育長が「将来を見通すのが難しい時代にあって、皆さんには自ら課題を発見して、科学の力を信じて仲間と協力しながらその解決に取り組んでもらいたい」と述べました。盛山正仁文部科学大臣も「この大会の目的は、未知の分野に挑戦する探究心や創造性を育むこと。世界のリーダーとなって課題を解決してほしい」と選手たちに大きな期待を寄せました。

生徒間交流イベントやエクスカーションが復活し、成功を抱き合って喜び合う姿も見られるなど、若い力が思いっきり活躍できる時世が戻ってきたと感じられる大会でした。

~こんな一コマも~

エクスカーションでは、学校ごとに分かれて高エネルギー加速器研究機構や防災科学技術研究所、JAXA筑波宇宙センターなど、茨城県が誇る研究施設を訪問しました。そのうちの一つ、霞ヶ浦環境科学センターでは、水環境や大気環境を守るために調査研究や技術開発を行っています。選手たちは、最先端機器を使った分析を見学した一方で、手を動かして滴定を行わなければならない調査があることを知り、今学んでいる科学の知識や技術が現場で生きていることを目にしました。霞ケ浦に棲むプランクトンの顕微鏡観察では、気に入ったプランクトンの写真をお土産にもらって帰りました。

また、協働パートナー等によるブース展示でも、科学の面白さや実社会とのつながりを体感できる展示や体験、実験ショーが数多く用意されました。選手たちは、企業で働く研究者の方々と意見を交わしたり、最先端の機器に触れたりすることで多くの刺激を得ることができました。

協働パートナー企業の皆様、
応援ありがとうございました!