国立研究開発法人 科学技術振興機構

第4回全国大会ダイジェスト・レポート

47都道府県の代表校が、新会場、茨城県つくば市で科学の力を競う

全国の高校生がチームで科学の知識と技能を競う「第4回 科学の甲子園全国大会」が、3月20日~23日に茨城県つくば市で開催されました。過去最多の7,650名が参加した各都道府県大会を勝ち抜いた47校・370名が、チームワークを駆使して筆記と実技の課題に挑みました。競技を中心に大会の模様をレポートします。

参加選手全員での集合写真
【集合写真】

開催地にちなんだ課題や初めての地学分野の実技競技も

大会2日目に実施された最初の実技競技は、今年から開催地となったつくば市にちなんで、「つくばの名水」と題した化学の実験問題です。所定の材料でマイクロスケールの実験器具を組み立て、筑波山一乗院の湧水の硬度(全硬度、Ca硬度、Mg硬度)をキレート滴定実験により測定するという課題です。各チームは、器具の組み立てと実験、測定値の計算など、3名で役割分担をしながら課題に取り組んでいました。

実技競技 1 に取り組む選手たち 1
マイクロスケールでのキレート滴定に挑戦中
実技競技 1 に取り組む選手たち 2
それぞれにチームワークを発揮
【実技競技①】

実技競技②は「THE 地学」。2016年に三重県で国際地学オリンピックが開催されることもあり、科学の甲子園では初となる地学分野の競技が採用されました。地学は、地球を対象とする自然科学の総称であり、過去から未来への時間の連なりを視野にいれた、幅広い総合的な学問といえます。高校での学習者が多くはありませんが、この競技を通して興味のある分野へと進む生徒が出てきて欲しいという意図で、地質系、気象系、天文系から基礎的な課題が8つ用意されました。120分の制限時間内に、1つでも多くの課題を解くためには課題の選び方や時間の使い方などのチーム戦略も問われます。高校生たちは、「化石を取り出せ」、「空気の重さを計量せよ」、「土星のリングの視直径を求めよ」といったユニークな課題に取り組みながら、地学の奥深さや幅広さを実感している様子でした。

残り時間が前方スクリーンに映し出された実技競技 2 の会場
課題を巡る順番は各校様々。
手前は筑波山を模した「カピオ山」向かって左のカピオ雄山側には岩石標本の作製課題、
右のカピオ女山には化石を取り出す課題が設置
課題をクリアし5つのバラが咲いた栃木県代表チームのフラッグ
合格した課題の数だけバラの花が咲いた
実技競技 2 に取り組む選手たち
組み立てた望遠鏡で土星を観る
【実技競技②】

チームワークと科学の総合力が問われる事前公開競技

3日目の実技競技③は、ものづくりの力とチームワークが必須となる事前公開競技です。今回は「登れ! 筑波山」と題し、斜面を下る際の回生ブレーキによるエネルギーを電気二重層コンデンサに蓄える充電カーと、そのコンデンサを使って空中ロープを登るロープウェイを製作し、タイムレースで勝敗を競いました。 優勝したのは、予選、決勝と安定して好タイムを記録した富山県立富山中部高等学校チーム。準備期間中は土日も学校に集まり、試走を繰り返して最適な充電量やギア比などを決めたそうで、「練習でたくさん失敗したことが、本番での好タイムにつながった」と喜びを語りました。

実技競技 3 で使用する部品を作る選手
完成した機体をロープに取り付け
実技競技 3 に取り組む選手たち
走行状態を見守る緊張の瞬間
【実験競技③】

ノーベル物理学賞受賞者の講演と未来の科学者への激励

午後には、2014年にノーベル物理学賞を受賞した天野浩先生(名古屋大学大学院教授)らを招いた特別シンポジウム「キミが世界を変える!」が開かれました。「次の受賞者への伝言」と題して講演した天野先生は、自身の高校時代の過ごし方や、青色発光ダイオードの研究に取り組んだ経緯を紹介。「世の中にアンテナを向け、何が問題かを考え続けることが大切。そこから世界を変える研究のきっかけが見えてくる」と高校生たちにメッセージを送りました。

講演する天野浩先生
【天野浩先生(名古屋大学大学院教授)】

千葉県代表・渋谷教育学園幕張高等学校チームが初の総合優勝

競技終了後の表彰式では、大会実行委員長の中村道治JST理事長が「科学の甲子園を通して培った経験を生かして、将来、価値を生み出す人間になってほしい」と呼びかけました。来賓として登壇した藤井基之文部科学副大臣は、「科学を楽しみながら自らを高めようとする姿に感銘を受けた。2016年の地学をはじめ、国内で開催予定の国際科学オリンピックにも期待したい」とあいさつしました。さらに楠田幹人茨城県副知事は、「この大会参加を機に、2万人の研究者が集うつくばの研究環境もぜひ体験してほしい」と述べました。

第4回大会の総合優勝は、渋谷教育学園幕張高等学校(千葉県)。第2位は白陵高等学校(兵庫県)、第3位は静岡県立清水東高等学校となり、それぞれトロフィーとメダルが授与されました。このほか、各競技の成績優秀校に協賛企業から企業賞も贈られました。

優勝した渋谷教育学園幕張高等学校は、昨年に続いて2年連続2回目の出場です。競技に参加したのは2年生5名、1年生3名のチーム。理数系の部に所属する数人を中心に、「友だちの友だちにも声をかけ合って、科学好きが集まってできたチーム」といい、メンバーには野球部員や吹奏楽部員も含まれています。
キャプテンの中村柊さん(2年生)は、「サブに回った2名も含めて、チーム全体でうまく戦えたことが勝因」とチームワークのよさを強調。メンバーからも、「学年の違いも気にならず和気あいあいと楽しくできた」、「大会への参加を通じて素晴らしい先輩と出会えてよかった」といった声が上がっていました。
なお同校チームは、今年5月にアメリカ・ネブラスカ州で開催されるサイエンス・オリンピアド2015に日本代表として特別参加します。

優勝した千葉県代表チーム
【優勝した渋谷教育学園幕張高等学校】

科学好きの高校生や科学に関わる人々をつなぐ場として発展する大会

大会では、競技で競い合うだけでなく、学校の枠を超えた参加者同士の交流も大きな目的です。今大会では交流のきっかけとして、これまでのフェアウェルパーティーやエクスカーションに加えて、新しく、各都道府県の代表校が持ち寄ってきた物を交換する「スワップミート」が企画されるなど、生徒同士が積極的にネットワークを作る機会の充実も図られています。

スワップミートを楽しむ選手たち
学校の枠を越えて交流する選手たち
【スワップミート】

教員や指導者、企業関係者向けにも、科学系の人材育成をテーマにした産学官特別交流会が実施され、科学教育は教育界だけの課題ではないという熱いディスカッションが展開される場となりました(【特別編】第4回全国大会 特別交流会 〜科学的人材を育てるための産学官コラボレーションのあり方〜)。

また今大会から連携自治体となった茨城県とつくば市の協力を得て、セグウェイ試乗体験やロボットスーツHALの動作原理体験など、参加生徒はもちろん一般来場者も楽しめる催し物も提供されるなど、科学の甲子園は、科学を楽しみ、科学に関わる多くの人々をつなぐ場としても一層の充実を見せてきました。

セグウェイに試乗する選手
【セグウェイ試乗体験】
ロボットスーツHALの動作原理を体験する選手
【ロボットスーツHALの動作原理体験】

“サイエンスシティ”と称される茨城県つくば市を舞台に新たなスタートを切った科学の甲子園全国大会。来年度の第5回大会も、同じ会場で開催される予定です。