第6回全国大会ダイジェスト・レポート
仲間と共に駆け抜けた47校の挑戦の軌跡
「第6回 科学の甲子園全国大会」は、3月17日~20日に茨城県つくば市で開催されました。各都道府県の代表校がチームで科学の知識と技能を競った4日間の模様をダイジェストでお届けします。
都道府県大会には過去最多の682校がエントリー
科学好きの高校生たちがチームで挑戦できる舞台として、年々規模が拡大している「科学の甲子園」。今年度の都道府県大会には、過去最多の682校から8,244名が参加し、全国大会には、初出場14校を含む47校から361名が集まりました。
初日の開会式では、各校の特色あるパフォーマンスが見られる入場行進に続き、栃木県立宇都宮高等学校2年生小林海翔さんが選手宣誓を行いました。「私たちが志す科学は、社会をより豊かにするための人類の英知であり、何世紀もかけて先人が流してきた血と汗と涙と、そしてひらめきの結果です。私たちは、先人たちの科学の英知を活かし、チームメイトと共に全力を出し切り、全国の仲間と切磋琢磨し、科学の輪を未来へ広げていくことを誓います」との言葉に、会場全体が科学への情熱で包まれました。
科学の難しさと楽しさを実感できる実技競技
大会2日目には、筆記競技と2つの実技競技が行われました。
実技競技①は、「袋田の滝の凍結」と題した化学分野の課題です。まず、ビフェニルを湯煎で溶かします。これを室温で放冷し、冷却時間と温度の関係をグラフ化して凝固点を決定する実験が最初の課題です。さらに、このビフェニルの性質を使って、未知の物質(溶質)XとYの正体を突き止めます。溶質Xを一定量溶かした溶液をつくり、その凝固点が溶媒と比べて何度下がったかを測定。下がった温度が溶かしたXの質量に比例することをもとに、Xの分子量を求め、Xを同定して考察します。その後、物質Yについても同様の実験を行います。
生徒たちは3名チームで、温度計や物質の凝固を注視する役割や、経過時間を知らせる役割などを分担して実験を進めていきました。競技終了後には、観客席から見守っていたチームメイトにさっそく結果を報告。「考察がしっかり書けなかった」と悔しがる生徒の姿も見られました。
実技競技②は地学分野からの出題です。タイトルは「進撃のダイナ走ー」。中生代の恐竜や新生代のアファール猿人の足跡の化石から、歩行速度を推定するという課題です。手がかりは、自分たちの歩幅と足のサイズや長さなど。そこから歩く速さを測り、近似式を求め、その式を恐竜や猿人に応用します。他のチームと計測値を共有し、より正確なデータが作成できるかもポイントでした。発展課題として、重力の小さい火星での人類の歩行速度の考察も求められました。過去・現在・未来が一体化した「地球科学」という知的空間ならではの課題に、生徒たちの興味もかき立てられたようで、靴下も脱ぎ裸足で歩測に取り組むチームも見られました。この競技には、「第4回科学の甲子園ジュニア全国大会」で優勝した群馬県代表チームの中学生6人も特別参加。初出場の仙台高等専門学校と計測用レーンを共有し、お互いに声をかけあいながら歩行速度を測っていました。
この競技で1位となったのは奈良県代表東大寺学園高校でした。計測、理論、計算の担当を振り分け、効率よく正確なデータを得たことが勝因となったそうです。
大会3日目の午前中は、実技競技③「ばんえい競走inつくば」が行われ、各チーム4名で挑みました。競技時間は150分。60分間で温度差により発電する「ペルチェ素子」を搭載した電源車と、馬に見立てたクランク機構で動く四足歩行ロボットを製作し、所定のコースでレースを行います。この競技は、事前に公開されていたため、各チームとも試作機を作って試走を繰り返すなど、綿密な準備を重ねてきた様子で、電源車の構造やロボットのクランク機構の仕組みなど、随所に工夫が見られました。ペルチェ素子は片面を加熱し、もう片面を冷却することで、その温度差によって発電する熱電素子です。この温度差をどう維持するかが「電源車」の性能を左右します。レースコースは全長4mで、平坦なコースだけでなく、坂のあるコースもあり、スピードとパワーの両方が求められました。
優勝したのは、予選から決勝まで安定した走りを見せた岐阜県立岐阜高等学校。カンガルーのような足を採用し、発熱剤と水を反応させるタイミングも秒単位で練習してきたという生徒たちは、「努力の成果が出せました」とうれしそうに語りました。
研究者たちが語る「テーマ選び」のポイント
3日目の午後には、第一線で活躍する若手研究者を招いた特別シンポジウム「君だけのテーマの見つけ方」が開かれました。登壇した研究者は、自身の高校・大学時代も振り返りながら、現在の研究テーマとの出会いや、研究者に必要な資質について語りました。
青野真士先生(東京工業大学特任准教授)は、「何かを好きになる“強さ”が必要。それが研究への強いモチベーションになる」と強調。繁富香織先生(北海道大学特任准教授)は、「人との出会いからいろんなテーマが生まれる。こうした大会でも積極的に友だちをつくってほしい」と語りました。現在の研究テーマを「直感で決めた」という飛龍志津子先生(同志社大学准教授)は、「結果を損得で考えず、面白そうだと思ったらチャレンジしてみることも大切」とアドバイスしました。
また、細野秀雄先生(東京工業大学教授)は、「プロの研究者になると、世界と勝負しなければならない」と国際的な競争の厳しさを強調したうえで、「若い人たちは時代を感じるセンサーを持っている。その強みを生かして、自分でなければできないテーマを見つけてほしい」と生徒たちを激励しました。
岐阜県立岐阜高等学校チームが悲願の初優勝
表彰式冒頭、主催者を代表してあいさつしたJSTの安藤慶明理事は、「今大会の経験が皆さんにとって大きな財産になることを願っている。失敗を恐れず挑戦することを忘れないでほしい」と語りました。茨城県の小野寺俊教育長は、「世界の枠組みがどう変化しても、日本にとっての科学技術の重要性は変わらない。この大会で学んだことを生かして、世界で活躍する人材になってほしい」と参加した生徒たちの今後に期待を寄せました。文部科学省科学技術・学術政策局の神代浩 科学技術・学術総括官は、「この大会が高校生たちのチャレンジの場として定着していることがうれしい」としたうえで、2020年に向けて国際科学オリンピックの日本開催が相次ぐことを紹介し、「次のチャレンジの場としてみなさんも挑戦していただきたい」と呼びかけました。
今大会の覇者となったのは、第1回大会から連続出場をしている岐阜県立岐阜高等学校。第2位には初出場の東大寺学園高等学校チーム(奈良県代表)、第3位は海陽中等教育学校チーム(愛知県代表)でした。
岐阜県立岐阜高等学校は、第3回大会で2位、前回大会も3位と好成績を上げながら、優勝にはあと一歩と悔しい思いをしてきただけに、「先輩たちの思いや、先生方や後輩たちの期待をこの8名のメンバーで背負ってきました。仲間を信じて、努力を信じて取り組んだ結果が、優勝という結果につながってうれしいです」と、キャプテンの髙島優さんは満面の笑顔で喜びを語りました。なお岐阜高等学校チームは、今年5月に米国で開かれるサイエンス・オリンピアドに日本代表として派遣されます。
理系人材育成のあり方を教育関係者らが議論
この大会では、科学教育に携わる関係者らの交流も盛んです。表彰式後に開かれた、大会を支援頂く協働パートナーと教育関係者との交流会では、理系人材の育成と学校教育への支援のあり方をテーマに、各地の教育委員会や引率教員、企業関係者らが意見交換しました。(【特別編】第6回全国大会 協働パートナーと教育関係者との交流会 ~科学分野の学校教育の学びはどうあるべきか~)
都道府県大会への参加校数が過去最多を記録し、各地の代表争いもレベルアップしている科学の甲子園。埼玉県に会場を移して開催される第7回科学の甲子園全国大会を目指して、新たな挑戦が再び始まります。
(注:学年、肩書きなどは開催期間のもの)
~学校の枠を越えて楽しんだプログラム~
表彰式後、生徒たちは実験ショーやブース展示、エキシビション競技といった協働パートナーなどから提供された様々なプログラムを楽しみました。
今年のエキシビション競技は、最近注目を集めているドローンを使用したレースでした。
一枚翼のカエデの種の形をした屋内ドローンをジョイスティック型の赤外線コントローラで操縦し、学校の枠を越えたチームでの駅伝レースが展開されました。
実験ショーでは、「液体が凍る」「熱の伝わり方」などの実験にクイズを通して参加したり、デジタル顕微鏡を使ってミクロの世界を覗いたり、熱と圧力をテーマに日常の不思議を科学の視点で考察したりなど、生徒たちは科学に浸りきったひと時を過ごしました。