国立研究開発法人 科学技術振興機構

第5回全国大会ダイジェスト・レポート

チームで競い、“科学の輪”を広げた4日間

「第5回 科学の甲子園全国大会」が3月18日~21日に茨城県つくば市で開催され、各都道府県代表の47校・365名の高校生たちが、チームで科学の知識と技能を競いました。競技内容や併催イベントを含め、大会のハイライトをお届けします。

参加選手全員での集合写真
【科学好き 全員集合!】

大会1日目からチーム力を発揮

生徒たちが最初に行うのは、開会式での入場行進です。科学の甲子園のロゴと学校名が記載されたフラッグを持ったチームの代表生徒3名がステージ上で自校のアピールをします。その様子は、スポーツ大会と同じようにエネルギーに満ちあふれています。選手宣誓を行うのも野球の甲子園等を彷彿とさせますが、宣誓の文言には科学のエッセンスが加えられ、ひと味違った印象となります。今回の選手宣誓は、兵庫県立尼崎稲園高等学校が行いました。
全国大会の優勝チームは、毎年アメリカで開催されるサイエンス・オリンピアドに親善チームとして参加しています。今回の開会式には、サイエンス・オリンピアド会長の Gerald Putz氏と役員のSharon Putz氏が来場し、日本の科学好きな高校生たちに向かって、「科学や数学の能力を伸ばし、グローバルに活躍してくれることを期待しています」と語りかけました。

選手宣誓をする選手たち
選手宣誓
挨拶するサイエンス・オリンピアド会長のプッツ氏
サイエンス・オリンピアド会長
プッツ氏からのメッセージ

科学的な思考力と実験力が試された全5競技

第5回という節目となった今大会では実技に特別競技が追加され、筆記と実技の全5競技が行われました。
開会式終了後に実施された実技特別競技「ゆっくり、正確に着地するパラシュート」は、20枚のコーヒーフィルター、木綿糸、3.5gのワッシャーと製作道具を使い、60分の制限時間内にできるだけゆっくり、正確に着地するパラシュートを製作します。

パラシュートを制作する選手たち
物作りへの取組
パラシュートを持つ選手
いざ投下

その後、そのパラシュートを6m程度の高さから真下にある「的」に向けて実際に投下するコンテストを2回行い、滞空時間と正確性を計測して点数に換算し、得点の合計を競います。事前課題として提出された設計図は競技開始後に会場に掲示され、各チームの独創的なアイディアに感心する見学者の声が聞こえていました。

的を狙ってパラシュートを落とす選手
狙うはこの的

大会2日目は、午前中は筆記競技、午後は実技特別競技の2回目の投下と、実技競技①、実技競技②が実施されました。生徒たちは、担当競技に参加したり、チームメイトの応援をしたりと、多忙な1日を過ごしました。

実技競技①は「納豆菌のDNAを捕獲せよ!」というタイトルが示すように、茨城名物の納豆を使った生物分野の実験と考察の課題です。実験は2段階にわかれ、実験1では,納豆菌のDNAを簡易抽出し採取します。実験2では,採取したDNAに蛍光色素などを加えてDNAサンプルを調製し,アガロースゲル電気泳動によってサンプル中のDNAを分離します。次に、ゲルに青色LED光を照射し,明るく光るDNAのバンドをデジタルカメラで撮影します。考察問題の解答と実験結果が評価対象となりますが、実験結果が審査基準を満たし,かつ実験に要した時間が少ない上位6チームにボーナス点を与えるというように、実験スキルの評価にも配慮しています。

実技競技 1 に取り組む選手たち 1
実技競技① 納豆菌のDNAを抽出する
実技競技 1 に取り組む選手たち 2
実技競技① マイクロピペッターで緩衝液を入れる

実技競技②は物理分野からの出題です。「7回表裏:風船の物理」というタイトルで、風船の持つエネルギーを,空気を入れるための仕事(バネの伸縮でエネルギーを計算。バネで動かす空気入れを使用)、と膨らんだ風船のゴム膜の張力から、という2つの方法で求める課題です。さらに、発展課題ではガイドウェイを使用してこの風船を飛行させその距離を計測し,空気の量(膨らみの程度)と飛行距離の関係を考察します。実験方法、およびその結果について考察する力を競う競技として、精度を高めるための改善力と思考力を「未来力」として評価するという意図で出題されました。

実技実技競技 2 に取り組む選手たち 2
実技競技② 空気圧を測る
実技競技 2 に取り組む選手たち 1
実技競技② 計測を元に全員の知恵を集める

大会3日目、午前8:50に開始された最終競技となる実技競技③は、国際光年にちなんで「届け!光のメッセージ」。1文字が0~9, A~Fの16種類を表す64個の文字を赤、緑、青の3色のLEDを使って色の情報に変換し、光ファイバーをとおして受信側に正確に送り届ける速さを競う競技です。競技所要時間は160分。競技前半に送信機と受信機を製作し、後半では製作した機器を使ってタイムレースを実施。上位8チームが決勝レースを行いました。この競技では、海陽中等教育学校(愛知県)が、回路と4つの鍵盤状のキーを組み合わせることで、16通りの光を一つの動作で送信できる装置を製作。予選、決勝とも最速タイムかつ送信エラーなしという見事な結果で優勝を飾りました。

実技競技 3 に取り組む選手たち 1
実技競技③ 製作に挑む
実技競技 3 に取り組む選手たち 2
実技競技③ 思考・作業の成果

第一線の研究者たちが高校生にアドバイス

表彰式を待つ間に、「113番元素」の発見者となった研究グループを率いた森田浩介 九州大学大学院教授・理化学研究所グループディレクター等を招いた特別シンポジウムが実施されました。森田氏は会場の高校生たちに、「皆さんは将来、科学研究チームのリーダーになる人たち。リーダーは常に前向きであるべき。そして、反対意見を出してくれる人が側にいてくれると良い」と、チームづくりへのアドバイスをしました。
また、西成活裕 東京大学教授は、「研究者に必要なのは課題を深堀りする“多段思考力”。科学以外の他分野の勉強も無駄にはならない」と幅広く学ぶ意義を強調。一二三恵美 大分大学教授は「科学への好奇心と熱意を大切にしてほしい」、上村想太郎 東京大学大学院教授は「自分の可能性を狭めず、興味を持ったうえで知識を学ぶことが大切」と、それぞれの視点から高校生たちにメッセージを送りました。

初出場の愛知県・海陽中等教育学校が総合優勝

総合成績では、海陽中等教育学校(愛知県)が全国大会初出場で初優勝。栄光学園高等学校(神奈川県)が第2位、岐阜県立岐阜高等学校が第3位となりました。 海陽中等教育学校は、1年生5名、2年生1名というチーム構成です。キャプテンの神田秀峰さん(1年生)は、2年生主体のチームが多い全国大会にも不安はなかったといい、「1年生の力を見せたいという思いで、当初から全国優勝を目標にチームメンバー全員で練習に時間を費やしてきました。結果が出せてうれしい」と喜びを語りました。

喜びの歓声を上げる選手たち
歓声が上がる 表彰式
優勝旗を受け取る選手
科学の甲子園 優勝旗

産学官の交流や、理系キャリアに関する情報発信も

科学の甲子園全国大会では、高校生たちだけでなく、科学教育の指導や支援に携わる関係者らが交流する場も設けています。表彰式後に行われた産学官特別交流会では、各地の教育委員会担当者や引率教員、企業関係者らが、新しい学習指導要領を見据えて教科横断的・総合的に育成すべき資質・能力をテーマに意見交換しました。理数科目を扱った2つの分科会では、探究的な活動や専門的な知識技能の育成における学校と企業との連携のあり方を、事例をベースに検討。アクティブ・ラーニングに関する分科会では、主体的・探究的な学習を校内で普及させていくための手法や授業づくりのポイントなどを話し合い、各分科会での成果を全体会で発表し、共有しました。

同じ時間帯に、高校生たちを対象にした協賛・応援企業などによるブース展示や実験ショー、ミニセミナーなども行われました。理系のキャリア形成をテーマにミニセミナーを開催したトヨタ自動車株式会社(協力:トヨタ技術会)では、男女2人のエンジニアが、大学時代の研究と現在の職業とのつながり、エンジニアとしての日常の業務内容などを紹介しました。参加した高校生からは、「エンジニアの具体的な仕事内容がわかって参考になりました」といった感想が聞かれました。

エキシビション競技を楽しむ選手たち
エキシビション競技
協働パートナーによるミニセミナーに参加する選手たち
ミニセミナー

今年度の科学の甲子園は、各都道府県大会への参加者が過去最多の8,261名を記録しました。この中には、中学生対象の科学の甲子園ジュニアの経験者も含まれており、“科学の輪”を広げ、次世代にもつなぐ大会として着実に成長を続けています。同じく茨城県つくば市で開催される来年度の第6回大会にも、さらに多くの高校生たちの挑戦が期待されます。

第 5 回科学の甲子園全国大会を支援してくださった協働パートナー一覧
【応援頂いた皆様】