国立研究開発法人 科学技術振興機構

【特別編】第6回全国大会 協働パートナーと教育関係者との交流会 ~科学分野の学校教育の学びはどうあるべきか~

大会協働パートナーと教育関係者との交流会では、学校現場の課題や、企業が提供する教育プログラムの事例などを踏まえながら、科学分野の学校教育のあり方について意見交換を行いました。

パネリストの話に熱心に耳を傾ける参加者たち
パネリスト
高野美樹 氏(公益財団法人日立財団 事務局次長 兼 新規事業推進シニアプログラムオフィサー)
清水雅己 氏(埼玉県立川越工業高等学校校長)
秋山梓 氏(株式会社日立システムズ 公共情報サービス事業部 公共システム本部 技術士)
望月雄斗 氏(科学の甲子園OB・OG会 役員)
ファシリテーター
若江眞紀 氏(株式会社キャリアリンク)

子どもの主体的な学びの実現へ、企業の支援も本格化

冒頭で清水氏は、「科学には、未知のものに出合える可能性と今ないものを作り出せるチャンスという2つの期待がある。物質資源の乏しい日本にとって、日本のためにも、子どものためにも、生命線として成長させていかなければならないのが科学である」とその重要性を確認した上で、科学分野を含む学校教育全般において、「教科で教えるべき内容が多すぎるうえに、教員も多忙。授業の効率化や“わかりやすい授業”が求められるなかで、次への疑問を生むような授業づくりが困難になっている」と問題提起しました。
さらに、「学校が教えすぎるために、学生は自ら学ぶことを知らない」とする梅棹忠夫『知的生産の技術』(1969年)の一節を紹介し、「50年経っても状況は変わっていない」と指摘。次期学習指導要領でアクティブ・ラーニングの視点が導入されることは、「子ども自身による主体的な学びを取り戻すための動きだと見ている」と述べました。
これに対して他のパネリストは、「教科書通りの内容で、教えすぎる授業では疑問が介在する余地がなく、授業への興味が薄らいでいく」(望月氏)、「数式を暗記するのではなく、その応用がわかっていれば、学ぶ意欲も高まる」(秋山氏)など、自身の経験を振り返りながら発言しました。
高野氏は、こうした学校現場の状況に対する外部からの支援策の一例として、同財団が開発を進めている、プロジェクト型学習を取り入れた理工系人財育成事業「日立みらいイノベータープログラム」を紹介。「身近な課題を発見し、ソリューションを考え、イノベーションを起こし、それを人にも伝えていく。国際的に求められる資質・能力の向上に貢献するプログラムを検討中」とし、小学校からスタートし、中学・高校へとつながる系統的な理工系人材育成事業を発展させていくと語りました。

「社会に開かれた教育」で子どもの好奇心を育てる

次期学習指導要領では、「社会に開かれた教育」「アクティブ・ラーニング」「カリキュラム・マネジメント」などがキーワードになっています。知識・技能の定着を図りながら、学んだことをどう生かすかという資質・能力の育成が重視されていることも特徴で、若江氏は「学んだことを実社会に生かすという点においてこそ、科学教育の真価が発揮できるのではないか」と提言しました。
この点について清水氏は、「資質・能力の基盤となる好奇心をいかに育てるかが重要」と指摘。同校の課題研究の取組では、パナソニックなど多くの企業と連携した活動を推進していることを紹介し、「社会と向き合って学習が進んでいくと、子どもたちは高い関心を示す」ことから、企業などと連携した「社会から課題・テーマをもらう学習」を大切にしていると述べました。
高野氏も、「学んだことを応用して新しいものを創造するきっかけになるプログラムが、学校から求められていると感じる」とし、「日立みらいイノベータープログラム」もこうした現場のニーズに沿った内容になっていると説明しました。
現時点では小学校対象ということもあり、子どもたちにとって身近な「学校」をテーマに設定。基本的なスキルトレーニングの後、「学校生活のイノベーターになろう」というテーマでプロジェクト学習を進めている。授業には日立グループのボランティアも参加し、実際のビジネスで行われている課題解決手法を子どもたちにアドバイスをし、それを受けて子どもたちは解決策を考え、その効果検証まで行う。高野氏は、都内の小学校での検証授業の成果を紹介し、「未来のイノベーターを育成するプログラムとしての手応えを感じています」と語りました。

社会の「本物・いま」に触れる学びのデザインを

望月氏は、子どもの頃にプリズムの光を見て科学に興味を持ったエピソードや、高校の課題研究で大学教員の厳しい指導を受けた経験を紹介。「私の中にある資質・能力があるとしたら、それは高校までにまいてもらった種を育てたもので、その種を植えてくれる人に出会えることが重要」とし、「学校の先生方はお忙しいと思いますが、多くの種をまく作業を続けてほしいと思います」と参加した学校関係者に呼びかけました。
科学の甲子園OB・OG会は有志により3年前に発足した組織です。その立ち上げに尽力した望月氏は、会のメンバーとのやりとりを通して、「異分野の協働研究の必要性」を痛感し、そういう場所を具体的に作ることを目指したいと力強く語りました。
日立グループ技術士会のメンバーでもある秋山氏は、中高校生を対象にした科学実験教室や、海外の科学教育コンテンツの翻訳活動など、技術士会の女性グループによる教育支援の取り組みを紹介。翻訳されたコンテンツを授業で活用するだけでなく、英語力育成を兼ねた学習活動として自ら翻訳作業を行っている高校の事例なども挙げ、「こうした外部の支援や情報を先生方にも有効に活用してほしい」と述べました。

最後に主催者として登壇した藤井春彦主任調査員が、「教育と学習は互いに相互的であり、答えを教えるのではなく、学び方を教えることが期待されている。次期学習指導要領改訂は、戦後の改変から連続した一連の流れと捉えないと、アクティブ・ラーニングが流行語と化して元に戻ってしまうかもしれないとの危惧もあり、学びは教科書や教室では完結しえない。2045年にAIが人間を超えると言われており、社会構造や仕事の形態が全く変わるだろう。そこでいま、何を本当に学習すべきかを教育現場が必死に考え、それを具現化しなければならない」と総括し、「各学校で総合的な学習(探究)の時間の内容を見直して、外とつながる学びをデザインしていただきたい」という若江氏の発言で交流会が締めくくられました。

参加者からは、「科学教育の現状と理想について様々な意見が聞けた」、「企業と教育現場との関わりがわかった」といった感想や、「企業は、生徒向けの中・長期の研修を積極的に担って欲しい」、「企業の出前授業は、教員の授業感を変えるきっかけとなり得る」というように企業の積極的な関わりへの期待も聞かれました。