国立研究開発法人 科学技術振興機構

科学の甲子園を糧に

寄稿:2023年11月

写真:桑江 優希さん

桑江 優希さん
広島大学 理学部化学科 4年
(第6・7回科学の甲子園全国大会 福岡県代表)

 第6・7回科学の甲子園全国大会に福岡県代表チームで出場し、第7回ではキャプテンを務めた桑江優希です。現在、物理化学の研究をしながら、天文学を趣味として楽しんでいます。今回は、自身が科学の甲子園を通して何を学び、それを現在どのように生かしているかを簡単にお伝えしたいと思います。

第6回科学の甲子園全国大会に向けて

 私が科学の甲子園を知ったのは、高校1年生になったばかりのときでした。入学した高校は中高一貫の学校でしたが、私は外部進学の生徒でした。高校で化学部に入り、出会った内部進学の友人が科学の甲子園ジュニアに出場していました。彼からさまざまな話を聞き、興味を持った私は、その後、校内選抜や県大会を勝ち抜き、第6回科学の甲子園全国大会に出場することができました。

手描きの旗を持ってステージに立つ男子高校生3人
第6回科学の甲子園全国大会の開会式でパフォーマンスする桑江さん(中央)

 思い返すと、全国大会に向けて、事前公開競技を徹底的に取り組み、筆記競技や地学の競技に備えて、学校では開講されていない地学の教科書をボロボロになるまで読みました。そして、先輩たちに連れて行ってもらったつくば市での科学の甲子園全国大会は、まさに夢の舞台でした。当日は、県代表旗を学校に忘れてきたというハプニングもありましたが、日本中の理数が好きな人たちと4日間にもわたり交流する機会を持てたことは、非常に豊かな経験でした。特に地学競技では、他の複数の県代表と実験データを共有し、そこから考察をする機会があり、その日の夜には問題内容や各県代表ごとの事前公開競技への取り組みについて話すことができました。最後日には、徹夜で福岡の話やさまざまな理数の話を楽しむことができ、こういった内容がとても心に残っています。

 一方で、科学の甲子園には順位というものも存在します。高校1年生を含むチームの中の優秀校に与えられる「埼玉県経営者協会賞」という賞を受賞することはできましたが、順位は満足のいく結果ではなく、非常に悔しい思いをしました。

2度目の科学の甲子園全国大会

 第6回科学の甲子園全国大会での経験から得た悔しさが、2年生になった私をより深く理数に興味を持つ方向に導いていきました。その1年間で、さまざまな科学オリンピックに挑戦しました。かつては雲の上にしかないと考えていた科学オリンピックが、実際には努力すれば到達できる位置にあることを科学の甲子園が教えてくれました。「あの舞台に必ず戻りたい」という願いが実り、無事に県代表を勝ち取り、さいたま市で行われた第7回科学の甲子園全国大会に出場できました。全国大会では、第6回と同様にさまざまな人々と交流する機会がありました。SNS等で交流していた、各県の科学の甲子園代表の地学好きの友人たちと一緒に、地学系のコンテストに応募し、賞を受賞するといった経験もしました。そして、もちろん、1年間の勉強の成果を生かし、より多くの人々と深い理数の内容について議論することができ、そのことが非常に喜ばしいものでした。一方で、結果は第6回よりも厳しいものであり、キャプテンとして良い成績を収めることができなかったことや、全力で戦ってくれたチームメンバーに対する申し訳ない気持ちから、閉会式の夜には涙が止まりませんでした。

県代表旗を持ってステージに立つ男子高校生3人
第7回科学の甲子園全国大会の開会式でパフォーマンスする桑江さん(中央)

 科学の甲子園の良いところは2つあると思います。1つは自己研鑽の場になることです。学校では、教科書に書かれた内容を学び問題を紙面上で解くことがほとんどですが、科学の甲子園で学ぶことができるものは、教科書に書かれている内容だけではありません。「実技競技」にあるように、実際に手を動かすことや、チームで競う「筆記競技」にあるように、仲間たちと積極的に意見交換をして問題を解決していくことは、本来、探究活動を基本とする科学においてとても大切なことだと私は思っています。これを学ぶことができるのが科学の甲子園の良いところです。

 2つ目は、同年代のさまざまな理数好きの高校生と交流できることです。これだけたくさんの、そしてさまざまな分野の、理数好きな高校生が一堂に会する機会はなかなかありません。この大会で積極的に交流を図ることで、自分の視野を広げることができます。自身も大会を通じて、理数系のさまざまな大会やイベント、個々の研究について学び、新たな多くの刺激を受けました。

 全国大会にチャレンジする人・全国大会に出場する人は、本気で優勝を目指してください。その過程は間違いなく自分の糧になると思います。そして全国大会に出場が決まった人たちは、それと同じくらい、他の都道府県代表たちと積極的に交流してください。これもまた、自分の糧になると思います。

私の現在点

 科学の甲子園を通して数理にさらに興味を持った結果、高校卒業後、私はレーザーに関心を持ち、現在では非常に短時間で分子の反応過程を観察する研究を行っています。来年、大学を卒業した後、京都の大学院に進学し、さらに時間の短さや波長を変えた研究したいと考えています。

 一方で、科学の甲子園を通して学んだ地学も私の現在に繋がっています。大学入試では地学を選択し、大学に入学後は天文のサークルに所属し、天体観測や天文のイベントの開催などに携わっています。この経験を通じて、地域のプラネタリウム講演なども行う機会があり、科学の甲子園で知り合った他校の友人と共に、天文学オリンピックの運営にも携わっています。

プラネタリウム内で機器を操作しながら講演する男性
地域のプラネタリウム講演の一コマ

 私の夢は、科学の探究を続け、今まで誰も知らなかった自然現象を解明し、その探究の面白さをさまざまな人に伝えることです。大学での化学、天文学のように、小学校・中学校で好きだった理数分野を、高校でさらに深めていくきっかけとなったのは、科学の甲子園でした。みなさんが科学の甲子園への参加を通して、多くの人々と交流し、視野を広げ、自身の進路に影響を与える経験を得ることができることを願っています。