国立研究開発法人 科学技術振興機構

つながるっておもしろい
~科学の甲子園で科目の境を越えて~

寄稿:2024年5月

写真:倉内 洋翔さん

倉内 洋翔さん
京都大学 農学部地域環境工学科 3回生
(第10回科学の甲子園全国大会 大阪府代表)

 第10回科学の甲子園全国大会に大阪府代表として出場させていただきました、倉内洋翔と申します。現在は農村や里山里海のほかに、森里海連環学という学問についても学んでいます。しかし最近は科学論や学際研究にも興味が出始め、興味が無限に広がっています。

 さて今回は、自身の科学の甲子園での経験を振り返りながら、科学の甲子園と学びのつながりについてお伝えさせていただこうと思います。

一からのチーム結成、そして全国大会までの道のり

 私が科学の甲子園に出合ったきっかけは、高校1年生のときに、地学オリンピックを受験するにあたってSNSで情報収集を行っていたことです。学校がSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定されていたことから科学オリンピックの参加を推奨され、私は最も興味のあった地学を受験しました。そのときに同じ受験者からの話で科学の甲子園という大会の存在を知り、チーム戦で競技科学に挑むというところに漠然と魅力を感じたのですが、そのときにはすでに都道府県大会が終わっており、もっと早く知っておくべきだったと歯痒い気持ちで眺めていました。

 そんな中、2年生に進学する際に新型コロナウイルス感染症が拡大し、学校で長期的な休校が始まります。クラスメイトと会わない日々が続き、打ち込むことがなく空虚感を覚えていました。何かできることはないかと模索していたそのときに、「科学の甲子園なら、楽しいことができるかもしれない」と気づき、出場を決意しました。しかし、母校には科学の甲子園に出場するという伝統がなかったため、ほぼゼロからのスタートでした。そこで、「自分は地学が得意だから、それ以外の残り5科目に詳しい人を集められれば勝てるかもしれない」と思い、チームの結成に奔走しました。そうして、本当に自分の理想に限りなく近いチームが完成してしまったのです。自分でも驚きの行動力が発揮された瞬間だったと思います。

 そして結成されたチーム、それをまとめるのは自分という夢にも見ない状況の中、大阪府大会に挑むことになりました。6科目の知識が問われる筆記試験と、発想力が問われる工作の実技試験に挑みました。そして、幸運にも私たち大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎チームは大阪府大会を突破し、見事全国大会への切符を手にしました。私が科学の甲子園に対して抱いていた夢物語は夢ではなく、現実の物語となったのです。「強豪が集まる大阪府大会を突破した自分たちなら、全国でも戦えるかもしれない」私はそんな思いをひしひしと抱きながら、全国大会への準備を始めていきました。

全国大会での挫折、そして得たものは

 しかし全国大会では、いわゆる強豪校の存在を思い知らされることとなりました。走らないシャトルカー、突如襲いかかる地震、情報競技で見せつけられた圧倒的なプログラミング能力、と全国大会のレベルの高さを間近で見せつけられました。思っていた通りの成績を残すことは到底叶わず、悔しい結果に終わってしまいました。

 チームを率いるキャプテンとしてはメンバーの実力を活かし切ることができなかったこと、そして個人としては全国大会で力を発揮し切る準備ができなかったことに、強い後悔を抱きました。この経験は、自分のリーダーとしての素質の甘さや、とにかく自分の力不足を思い知らされた一幕であり、今でも忘れられない記憶として刻み込まれています。

会場の座席から立ち上がりポーズを決める選手8人
全国大会開会式でのパフォーマンスの様子

 一方で、全国大会での経験は、今後につながることも多くありました。

 まず、チーム内で他の科目を得意とする人と議論できたことです。チームでの全国大会に向けた準備期間は、チームメンバーが得意とする科目への興味・関心の向上に加えて、科目間のつながりを意識する期間となりました。科学の甲子園にしかない独特の競技性として、6科目をチームで筆記と実技にまたがって総合的に競うものであるために、1科目だけ強くても勝ちにつながらないこと、複数の科目が融合した問題や競技があるために、必然的にチームメンバーでお互いの知見を共有し合う「異分野連携」のような形が求められることが挙げられます。私は、特に他の科目とつながりの強い地学を主科目として学んでいたこともあり、他の科目との関係性は常に考えていたと思います。一方で、他の科目を担当するチームメンバーと一緒に力を合わせて一つの課題に取り組んでいくことは、決して簡単なことではありませんでした。問題一つとっても、それに対するアプローチや解き方は違ってきます。特に実技競技となれば、お互いの考え方や取り組み方の違いが顕著に出ることも多々ありました。
「異なる科目の学びはつながっている」「携わる分野が違えば、考え方や主義主張も違っている」
当時は気づきませんでしたが、後になってその経験の重みを体感し、大学に入ってからの取り組みにも大きく影響するものだったと実感しています。これらの考え方は後述するOBOG会の活動を通して培われたと思います。

 そしてもう一つには、他県からの参加者との交流を深められたことです。新型コロナウイルス感染症拡大防止のために制限された大会ではあったものの、対面での開催が実現したこと、オンライン技術を活用した遠隔交流の試みやSNSを介した交流により、大会参加者同士のつながりは確かにできていたなと実感します。

オレンジのブルゾンを着た7人の生徒
全国大会でのチーム集合写真

 そして私個人としては、やはり柴山さんの記事にもあった、OBOG会の活動に参画してから、そのつながりを強く実感させられています。OBOG会には設立当初から微力ながら立ち上げや運営に携わっていましたが、昨年度は柴山さんより引き継ぎ2代目の会長に就任し、「科学の甲子園」をキーワードとして、人々の交流が活性化するよう取り組みを進めました。(現在は副会長の職に就いて、継続して役員としての活動をしています。)

 現在、OBOG会では交流会や現地観戦、同窓会などの、会員同士の交流が深められる機会を用意しています。公式Xアカウント( https://twitter.com/Kakou_OBOG )でも発信を進めていますので、ぜひご覧ください。

 OBOGとしての交流については、特に大学生になってからよりその良さを実感しているところです。私はOBOGの中では比較的珍しい進路に進んだため、OBOG会では常に異分野に携わる方との交流がありました。それは本当に刺激的でかつ新しい視点をもらえる、素敵な瞬間です。

「連環」を解明したい。その第一歩に

 私は地学を理科の中ではメインで勉強していたこともあり、漠然と環境問題に対して取り組むために農村を研究しようと大学に入学しましたが、なかなか切り口を見つけることができませんでした。しかしそんな中、ある学問と出合います。それは京都大学フィールド科学教育研究センターの提唱する「森里海連環学」です。森里海連環学は言わば「人と自然の関係性を解明し、持続可能社会の構築を目指す学問」で、自然科学の分野以外にも、社会科学など多様な学問分野が関わる、文理融合や学際がキーワードになる学問です。私はその学際性や環境重視の考え方に感動し、森里海連環学を学ぶようになりました。

 そして月日は経ち、「この考え方をもっといろんな人に広めたい。この学問を通じていろんな分野の人がつながる場を作りたい」そんな思いから、「森里海と文化研究会」というサークルを設立することとなりました。そこから半年が経過し、現在は「人文科学の学習会」「里山里海などフィールドでの活動」「学内での交流会の開催」の3つの分野を軸としたサークルとなっています。

.ポスターの両脇に立つ2人の男性
フィールド研20周年式典での様子。当時センター長の朝倉彰氏と。

 このような構想を描き活動ができているというのは、科学の甲子園全国大会のときに体験したことが大きな糧になっていると確信しています。自分がチームや団体を引っ張るという難しさももちろんですが、そして何よりも、大阪府予選で優勝したときのような、チームで何か達成するという楽しさをもう一度味わいたい、という想いが大きかったように思います。

 そして最近は、活動の中で様々な学問分野を意識していることや、先生方の影響も受け、科学論や学際研究といった科学や学問そのものについても興味が出始めていて、自分の活動に取り入れ始めています。心のどこかで、科学や学問の発展自体にも何か貢献したい、という気持ちがあるのだと思います。

 私はどちらかというと、応用的な科学を学んだり研究したりする立場にあります。そのため学問自体に携わることは少なく、その立場に一見ないようも見えます。それでも、少しは科学や学問の発展に対してできることがあるはずだと信じています。立場は違っていても、「科学が好きだから」「科学のことを愛しているから」その気持ちはみなさんと同じです。この科学への愛は、科学の甲子園への取り組みを通じて育まれたことに間違いないと思います。

科学への愛を育む

 さて、末筆ながら、これから大会に出場されるみなさんには、3つのことを伝えたいと思います。

 まず、科学の甲子園の全国大会に出場された際には、勝つために全力を尽くしてください。他の方々も話している通り、科学の甲子園で勝つためにしてきた準備や努力は、間違いなくその後の経験や自信につながります。チームメンバーとたくさんのことを話して、いろんな視点を持って大会の競技に挑戦してほしいです。

 もう一つ、科学の甲子園での取り組みでたくさんの仲間や知人、友達を作ってください。高校生活において、科学の甲子園という全国規模の大会で交流ができるという経験は、本当に尊い経験です。そしてそれは、都道府県で行われる予選大会でも同じです。そのまたとない体験を、ぜひ最大限活用してください。それが、科学の甲子園の大会自体の発展にもつながります。

 そして最後に、科学の甲子園で、科学への愛を育んでください。自分が究めたい分野を極めること、科学の知見を社会に活用できる形で発展させること、「科学そのもの」を考えること。どんな形であっても、科学と関わりを持つこと。それが科学への愛の表れだと思います。みなさんが思う、科学への愛を取り組みの中で発揮してほしい、そしてこれからどんどん磨いていってほしいと切に願っています。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。「科学の甲子園」という1テーマでこれだけ途方もない文章量になってしまいましたが、科学の甲子園への、科学への愛をたくさん込めました。それが少しでも伝わったならこれ以上の喜びはありません。