第10回全国大会ダイジェスト・レポート
姫路城に見守られ3年ぶりの実地開催
科学の力を競い合い、全国の仲間と交流する3日間に
「第10回 科学の甲子園ジュニア全国大会」が2022年12月2日~4日の3日間、兵庫県姫路市文化コンベンションセンター「アクリエひめじ」で開催されました。各都道府県の予選大会に参加した中学生は総計24,589名。その中から選ばれた、6名1組の各都道府県を代表する47チーム280名の選手が、理科や数学など複数分野にわたる知識やその応用力をチームで競いました。全国の代表チームが一堂に会するのは、実に3年ぶりのことでした。
“光”のパフォーマンスで一つになった開会式
12月2日には開会式が行われました。最初に、会場の全員で光るリストバンドを使った光のパフォーマンスを行い、心を一つにして開会宣言を行いました。主催者である国立研究開発法人 科学技術振興機構の橋本和仁理事長からの開会挨拶の後、開催地となった兵庫県の竹村英樹産業労働部長と姫路市の清元秀泰市長が、全国から集まった代表選手たちを歓迎しました。各代表チームの紹介では、友達の応援メッセージなどの入ったフラッグを掲げてカメラに向かって思い思いのポーズを決めました。みんなの笑顔から大会を心待ちにしていた思いが伝わってきました。
大会2日目の12月3日には午前中に筆記競技と実技競技①、午後に実技競技②が行われました。筆記競技では、6つの問題に各チーム6名全員で取り組みました。6名それぞれの得意を活かして協力しながら、実生活・実社会と関わりのある教科を超えた融合的な問題に挑みました。
万華鏡から光の反射を学ぶ
実技競技①「覗いてごらん 鮮やかに広がる光の世界~万華鏡の物理~」は、光の反射を観察しながら解いていく問題でした。ものが発する光や反射した光が目に入ることで、私たちはものを見ることができます。ものによって反射の状況が違うのは、光に対する性質が違うためです。例えば、鏡(ミラー板)は光を"よく反射"するので姿が映りますが、アクリル板は通常では光をほとんど反射せずに"通す"ので、向こう側が見えます。また、ものが光を反射する性質は、光が入ってくる角度よっても変わります。選手たちはミラー板とアクリル板の反射の違いを、4種類の実験を通して確かめながら、光の性質への理解を深めていきました。
光の性質について理解した後、さらにアクリル板を使って同じ大きさの正三角形で覗く軸方向の長さの違う万華鏡を製作しました。身近なおもちゃである万華鏡は、光の反射の物理を巧みに利用して、美しい像を見せてくれます。自分たちでつくった素材の異なる万華鏡がどのように見えるかを観察しました。
この競技では、光の反射を観察するための装置をいくつも工作したり、インスタントカメラで撮影した観察結果の写真を提出したり、さまざまな作業を行わなければなりませんでした。選手たちは90分という制限時間の中で、仲間と分担したり協力したりしながらで実験を進めていました。また、改めて光のたどる道の面白さに気づいて、驚いているチームもありました。
実技競技①の後、兵庫県代表チームが、地元のサンテレビと神戸新聞社の取材を受けました。ここまでを振り返って、「筆記競技は難しかったけれど、問題が面白いから楽しめました」、「実技競技①は問題数が多くて、これを90分ではやれそうにないと思いました。でも、一人ひとり違う実験をするなどチームワークを発揮して終わらせました」、「今まで科学にはあまり興味がなかったですが、今回の経験で変わりました!」などと話していました。
紙で強い橋をつくろう
続いて行われた実技競技②「海峡運搬チャレンジ」は、事前に準備をして臨む工作の問題でした。今大会では、上質紙と厚口上質紙がA4サイズ各50枚と両面テープ2巻の決められた材料で、深さ25cm幅2mの海峡に渡す橋をつくりました。製作後には橋を使って、500mLサイズのペットボトルを車で運搬する「運搬チャレンジ」も行われました。開催地の兵庫県には、本州と淡路島を結ぶ全長3,911 mの明石海峡大橋があります。紙で、運搬の際の荷重に耐えられる丈夫な橋をつくるのは簡単ではありませんが、各チームとも準備してきた力を発揮しようと懸命に取り組んでいました。
95分間の製作の後、いよいよ「運搬チャレンジ」の時がやってきました。2分間でどれだけ500mLサイズのペットボトルを運べるかに挑戦しました。ペットボトルに入れる水の量を調整することができたので、橋が壊れることなく安全により多くの水を運ぶための戦略を選手たちはいろいろ考えたようでした。順位は、運搬した荷物の重量と、使わなかった紙の枚数の総合得点で競われました。
競技後、「途中で車を壊してしまったんです」と悔しがる鹿児島県代表チームに話を聞きました。「事前の準備期間には、最初に強い橋をつくって、どれくらい紙を減らせるかを考え抜きました」と橋を設計したメンバー。特に、海の中に立てられる橋脚の位置が競技開始直前の発表だったため、すぐに橋脚のつくり方を検討したそうです。こだわりの橋づくりに、ほかのメンバーも一丸となって取り組みました。橋をつくり、それを使って荷物を運んだ経験は、各チームにとってさまざまな学びとなったことでしょう。
昨年の2位を超え念願の優勝を果たした富山代表チーム
12月4日には表彰式が行われました。優勝は、富山県代表チーム。「昨年2位で悔しい思いをしたので、1位が本当に嬉しいです」とキャプテン。「昨年副賞としてもらった図書カードで理科や数学の本を買って勉強しました。前大会をきっかけに科学への興味が増して、先生に質問に行く機会も増えました」と優勝をつかみ取るまでの道のりを話しました。それでも、自分が担当した実技競技①に自信がなくて昨晩は眠れなかったそうです。一方で、「やり切ったので昨夜はゆっくり寝られました」と話すメンバーもいて、チームで力を出し切ったことが伝わってきました。今回、富山県代表チームは3つの学校の合同チームでした。研修を重ねることでチームワークを育み、強みを活かし、弱みを補い合えるいいチームへと成長しました。最後に、将来の夢を聞きました。「数学の教師」「歌手です。歌詞に科学の内容を盛り込みますね」「小学校の教員です」「まだ決まっていません」…、それぞれがこの経験を活かして活躍してくれそうです。
表彰式では、兵庫県教育委員会の村田かおり教育次長が「念願の兵庫県開催が叶ったことを大変嬉しく思っています。選手たちが豊かな発想力とこれまでの知識を基に、仲間と協力しながら未知の問題に挑む姿に感動しました。競技を通して培った人との絆を、これからも大切にしてください」と話しました。また、永岡桂子文部科学大臣は「これから社会は、地球規模の問題に直面することでしょう。皆さんの未知の分野に挑戦する探究心と創造力が問題を解決する力になります。世界で活躍されることを期待しています」とエールを送りました。3年ぶりに一堂に会して行われた「科学の甲子園ジュニア全国大会」。競技に真剣に向き合い、仲間と刺激し合ったことは、選手一人ひとりにとってかけがえのない経験になったことでしょう。
〜こんな一コマも〜
開会式の後には、アイスブレイクが行われ、各チーム30秒のPRタイムが設けられました。都道府県の特色やチームメンバーについて知って欲しいことなどが語られ、全国の仲間と知り合うきっかけが生まれました。