第3回全国大会ダイジェスト・レポート
47都道府県代表の科学好きが集結した全国大会
全国の中学生が科学の力と技能を競う「第3回 科学の甲子園ジュニア全国大会」が、2015年12月4日~6日に東京都で開催されました。23,000名以上が参加した各都道府県大会を経て選抜された47チーム・282名が出場し、筆記競技と2つの実技競技で競い合いました。
科学を楽しみ、仲間との絆を深めた3日間
本大会は、高校生対象の「科学の甲子園全国大会」の中学生版として2013年に科学技術振興機構(JST)の主催で始まり、科学好きな裾野を広げるとともに、未知の分野に挑戦する探究心や創造性に優れた人材の育成を目的としています。また、科学好きの中学生たちの仲間づくりの機会となるよう、競技以外にも交流イベントや実験ショーなどさまざまな企画が盛り込まれています。
高校生大会と同じくチーム制を採用していますが、「ジュニア」の全国大会は1チーム6名構成で、複数校の生徒による“混成チーム”も参加できる点が特徴です。各自の得意分野を生かした役割分担やコミュニケーション力、ものづくり能力などを駆使して、チームとしての課題解決力を競います。
開会式では、広島県代表チームの川上航生さんと藤本達也さん(広島学院中学校2年)が、「正々堂々と勝負し、躍動することを誓います。科学を楽しみ、この3日間で培った科学の輪と情熱を未来につなげていきましょう」と選手宣誓をしました。
続いて、主催者を代表してあいさつしたJSTの濵口道成理事長は、パスカルの「人間は考える葦である」という言葉を生徒たちに紹介し、「考えることは人間の尊厳そのもの。みなさんにここへ来ていただいたのは、とことん考えてもらうためです。その機会を与えてくれた家族や先生方に感謝しながら、3日間しっかり考えてください」と激励しました。
また、今大会には、科学好きな生徒たちの憧れともいえる人たちからビデオメッセージが寄せられました。その1つは京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授からで、「優勝チームをiPS細胞研究所の見学ツアーに招待します」との嬉しいプレゼントが提供されました。
(山中伸弥教授からのメッセージ動画はこちら)
JAXA宇宙飛行士の油井亀美也氏からは、なんと国際宇宙ステーションからの激励メッセージが届きました。
(油井亀美也さんからのメッセージ動画はこちら)
多くの人たちの支援と注目の集まる中、生徒たちは翌日の競技に向けて集中力を高めているようでした。
開会式の後には、チーム相互の交流を深めようと、「スワップミート(手土産等の交換会)」が実施されました。生徒たちは手作り品や地元の特産品など持ち寄った物品を交換しながら初対面の壁を越え、仲間作りに勤しんでいました。
チームワークを生かして筆記・実技の課題に挑戦
全国大会の競技は、筆記と実技2種目です。筆記は6名全員、実技は各種目3名ずつで参加し、協力して課題に取り組みます。
実技競技①は、課題の一部が事前公開されていた「論理回路」。未知のICにさまざまな入力を与えて出力を観察し、その数値をまとめた表を作成。この表に基づく回路を実験用基板と10種類のICを組み合わせて作成し、動作の正しさを確認するという内容です。そのとき使用するICの数と種類をいかに少なくできるかが問われました。
この日のために準備を重ねてきた各チームは、ICの出力測定、数式化、回路作成などの役割を分担して作業を進めました。「事前に勉強はしていたけど、実際に回路をつくるのは大変。本番は緊張もしたので難しかったです」(福井県代表チーム)と振り返る生徒たちもいれば、「課題は難しかったけど、チームワークを発揮して成功することができてよかった」(岡山県代表チーム)、「最初はわからなかったけど、考えながら手を動かしているうちにわかっていく過程が面白かった。みんなで協力して達成感を味わえました」(宮城県代表チーム)など、手応えを語るチームも見られました。
実技競技②「ものの量を測る」では、与えられた部品で組み立てた測定器具や生徒自身の歩幅を利用して、身長を超える木の高さや空中に浮かぶ翼竜の大きさなどを三角測量の原理を応用して測り、測定過程と結果の正確さ、そして、正確な作図から答えを求めることを競いました。こちらの競技内容はその場で知らされるため、臨機応変な対応力も求められます。生徒たちはチーム内でじっくり話し合いながら測定計画を立て、手作りの測定器具や歩測を活用して取り組んでいました。
重圧の後の開放感、協働パートナーによるエキシビションを楽しむ
競技終了後は、協働パートナーから提供されるエキシビションタイムです。生徒たちは、「パソコン分解ワークショップ」(東芝)、「電気の歴史をたどるおもしろ実験」(学研ホールディングス)、「ぶつかる!とび出す!エネルギーの法則」(パナソニック)、「クイズ!極低温の謎に迫る!!」(ケニス)、「便利な電気の秘密にせまる」(ナリカ)といった各社のショーを、くつろいだ様子で楽しんでいました。
富山県代表チームが初めての総合優勝に輝く
表彰式に先立ってあいさつした安藤慶明・JST総括担当理事は、生徒たちのチームワークを生かした健闘を称え、「本大会は終わりではなく、新しいチャレンジへの出発点。高校生になっても、科学の甲子園や科学オリンピックへのチャレンジを続けてください」と呼びかけました。
来賓として登壇した文部科学省科学技術・学術政策局の川上伸昭局長は、この年ノーベル賞を受賞した2人の日本人科学者の業績を紹介しながら、「科学は今すぐ役立つものだけでなく、将来役に立つものもある。人類の知識を増やす研究もあれば、生活を豊かにする発見もある」と科学研究の広がりや奥深さを生徒たちに紹介。「国としても本大会を支援し、研究者を養成したいという思いがある。この大会がずっと続くことを祈念しています」と述べました。
表彰式では、筆記競技と実技競技2種目の得点を合計した総合成績が発表され、富山県代表チームが優勝、宮崎県代表チームが第2位、福島県代表チームが第3位となりました。このほか各競技の成績優秀チームに、協働パートナーからの企業賞が授与されました。
合同メンバーが培ったチーム力と“科学の心”
総合優勝を果たした富山県代表チームは、県大会後に4つの中学校(黒部市立高志野中学校、富山市立新庄中学校、高岡市立五位中学校、富山大学人間発達科学部附属中学校)の生徒たちで結成された混成チームです。本大会では、筆記競技と実技競技②で1位を獲得する強さを見せました。
大会審査委員長の永澤明・埼玉大学名誉教授は、得意分野を持つ生徒たちが学校の枠を超えて参加した富山県代表チームの健闘を、「さまざまな専門分野の研究者がチームを組んで環境やエネルギーなどの課題解決に取り組む、現在の科学のあり方を反映している」と評しました。さらに生徒たちに対して、「才能を伸ばして将来研究者を目指すことも大事だが、どの分野でも科学的なものの考え方は生かせる。今大会で見せてくれた、科学する気持ち・科学の心を、どの道へ進んでも忘れないでほしい」と呼びかけました。
富山県代表チームでキャプテンを務めた長井颯祐さん(富山大学人間発達科学部附属中学校2年)は、「大会前にはみんなで集まって練習しました。最初は会話もありませんでしたが、4日間の研修で親しくなれたのが大きかった。本番ではチームワークを発揮して優勝することができました」と喜びを語りました。
他のメンバーも、「チームワークを培って大会に臨めたことが優勝につながった」、「仲間で協力できたからこその結果だと思う」と、チームの絆が勝因と分析。大会での成果については、「交流が印象的。ここで出会った他県の生徒たちのことを友だちに知らせたい」、「将来の夢は英語の先生でしたが、この大会に参加して、科学系の進路を目指すのもよいと思いました」といった発言がありました。
なお富山県代表チームは、2016年3月に茨城県つくば市で開催される「第5回科学の甲子園全国大会」に特別参加することが決まっています。生徒たちは、「このメンバーで集まるのはこれが最後と思っていたけど、最後はまだまだ先になりそう」と仲間との再会の機会を楽しみにしている様子でした。
科学の甲子園ジュニアの第4回全国大会は、2016年12月に東京で開催される予定です。