国立研究開発法人 科学技術振興機構

第9回全国大会ダイジェスト・レポート

離れていても科学に挑む気持ちはひとつ!
中学生たちが、分散開催による筆記競技に奮闘

2021年12月3日と2022年1月17日、各都道府県の会場をオンラインでつなげ「第9回 科学の甲子園ジュニア 全国大会」が開催されました。本来であれば兵庫県姫路市に全国47の代表チームが集まり、3日間の競技(筆記と実技)を行うはずでしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を考慮し分散開催となり、筆記競技のみが実施されました。年をまたぎ、場所をこえて、全国の仲間たちがつながり科学に挑んだ全国大会の様子をお伝えします。

各都道府県会場からオンラインでチーム紹介をする選手たち

垣根を越えて集まった各都道府県の代表チーム

代表チームは各都道府県教育委員会によって催される地方予選によって選ばれます。参加できるのは中学1、2年生のみ、6名で1チームです。今年は、1校だけで構成されたチームが20チーム、半数以上の27チームが複数校の生徒による混合チームとなりました。富山県や長野県のように4校もの生徒が集結したチームもありました。クラスや部活動、学校の枠をも超えた交流が生まれるのも「科学の甲子園ジュニア 全国大会」の魅力です。常連校はあるものの、生徒一人ひとりにとっては初めての全国大会の舞台。挑戦が始まります。

全国各地をつなげたオンライン開会式

12月3日(金)15:00。各地の会場で282名の選手たちが同じ画面を見つめるなか、オンラインによる開会式が幕を開けました。大会スローガンは「広げよう科学のこころ つなげよう友情の絆」。司会者によるスローガンの読み上げに合わせて、画面越しに一斉にボディパフォーマンスで決意表明が行われました。

オンライン開会式のスライド
スローガンを読み上げる司会者

開会の挨拶では、国立研究開発法人科学技術振興機構の濱口道成理事長が、地球温暖化に関する研究で2021年ノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士の「最も面白い研究は好奇心が原動力になった研究」という言葉を引用し、「皆さんの好奇心を刺激する問題を用意しました」と激励。共催者の兵庫県からは西上三鶴教育長が、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックに触れ、「同世代の若い選手が活躍する姿が、感動、夢や希望を与えてくれました。皆さんにとってもこの大会が大切な思い出となりますように。頑張ってください!」とエールを送りました。

会場からオンライン開会式に参加する選手たち
選手たちは各会場からオンライン開会式に参加

開会式恒例の入場行進に代わって、今大会では47の代表チームがスライドで紹介され、個性あふれる紹介プロフィールが読み上げられました。「鶴が舞うように全国優勝に向けて羽ばたきます!(群馬県代表チーム)」、「きときとな富山の精鋭6人が大集結!(富山県代表チーム)」、「浜松のやらまいか精神、見せてやる!!(静岡県代表チーム)」、「困ったときに食べる讃岐うどんの粘り腰、ハマチ3兄弟のパワーで頑張ります!(香川県代表チーム)」、「世界有数の阿蘇のカルデラのような広い心と、くまモンのような元気をもって頑張ります(熊本県代表チーム)」など、地元愛にあふれたメッセージもあり、楽しいチーム紹介となりました。

富山県代表チームの6人
長野県代表チームの6人
4校の生徒が集まり代表チームを結成した富山県代表チームと長野県代表チーム
千葉県代表チームの6人
「令和2年度エキシビション大会」で数学分野
第1位のメンバーが再集結した千葉県代表チーム
鹿児島県代表チームの6人
初出場を決めた鹿児島大学教育学部附属中学校

70分1本勝負の筆記競技

開会式が終わると各会場で一斉に筆記競技がスタート。70分間で、物理、化学、生物、地学、数学、情報の6つの分野の問題に挑みました。
出題者に問題作成の意図を聞いてみました。
生物では、生物防御に関する問題が出題されました。新型コロナウイルス感染症の拡大により、ウイルスや免疫などが身近な存在になった今、生活に直結した興味深い問題です。
「ウイルスによって実際に自分たちの体がどういう反応をしているのか。身近な出来事をテーマにしています。単なる知識問題では、知っている、知っていないで終わってしまいますが、科学の甲子園では、問題文をしっかり読み込んで解いていく経験をして、読解力と、理解しながら解決していく力を身につけるきっかけにしてほしい」

数学の問題において選手たちが問われたのは、証明方法ではなく、なぜそうなるかの理由でした。「今回は『証明しなさい』ではなく『理由とともに答えなさい』という問い。考えていろいろやってみないと答えられません。数学に取り組む上で大切なのは考えることです。実際の生活の中でも『どうもこうなりそうだ』と考えを巡らすことができるようになってほしい。そして“証明すべきこと”を自分でつくりだしてほしい。問題を解きながら、『考えるって楽しい!』と感じてもらえたら嬉しい。」そんな思いの込められた問題でした。

筆記競技に取り組む山形県代表チーム
筆記競技に取り組む選手たち
難問を解き進めていく東京都代表チーム
協力して問題に取り組む富山県代表チーム
各会場で難問を解き進めていく選手たち

チーム一丸となって挑戦!難しかったけれど楽しかった!

筆記競技を終えたばかりの兵庫県代表チームに話を聞きました。兵庫県代表チームは兵庫教育大学附属中学校と兵庫県立大学付属中学校の2校混合チームです。競技前に両校のメンバーが対面できたのは1回のみでしたが、リモートミーティングやメールでコミュニケーションを取り交流を深めたそうです。

兵庫県代表チームの6人
チーム一丸となって難問に挑んだ兵庫県代表チーム
筆記競技、おつかれさまでした!

「あまり会えなかったけれど、チームワークをすごく感じました! 今日の筆記競技でもメンバーそれぞれが自分のパートを解きながら、わからなくなると『この問題、教えてー!』と協力しあって取り組みました(兵庫教育大学附属中学校・2年)」。「とても難しいところがあったのですが、残り10分のところで教育大附属の先輩が言ってくれた一言がヒントになりました(兵庫県立大学付属中学校・1年)」と、チーム一丸となって難問に挑んだ様子を教えてくれました。「文章やグラフを読み解く問題が多くてすごく難しかったです。でも、解いている時が楽しかった!」との声も。仲間とともに科学の奥深さと魅力を存分に味わった筆記競技となりました。

優勝は東京都代表チーム、喜びをSNSで分かち合う

翌2022年、1月17日。開会式と同じくオンラインにて結果発表と表彰式が開催され、6つの分野の分野別表彰、そして、総合成績上20位が表彰されました。第9回全国大会の総合成績第1位は、東京都代表チームです。

総合成績第1位を獲得した東京都代表チーム
「チームワーク」を武器に問題に取り組んだ東京都代表チーム
筆総合成績第1位に輝いた東京都代表チーム。おめでとうございます!

新型コロナウイルス感染症の影響によりチームメンバーで集まることもできないなか、「表彰式を見ながらメンバーたちとLINEでやりとりしていました」という東京都代表チームの選手たち。「純粋に驚いているのと嬉しいのとでいっぱいで、みんなで『おめでとう!』と送り合いました」と喜びの声を聞かせてくれました。勝因は「チームワーク」だそうで、  「一人ずつ担当科目と見直し科目を決めて筆記競技に臨んだのですが、その科目の中にも得意・不得意の分野があって計画通りにはいかなくて。でも、混乱しながらも協力し合って乗り越えられました! みんな、ありがとう!!」とキャプテン。「わからなかった問題がわかったり、未知の問題に挑んで解けた時にスッキリできたりするのが科学の面白さ」、「大会を通じて科学が得意であることがよくわかった」、「いずれは世の中のために役立てていきたい」と頼もしい言葉も飛び出しました。

来賓を代表して末松信介文部科学大臣は、「未知の分野に挑み、難題にぶつかった時に、自分でよく考え、まわりの人と協力しながら解決策を見出すことができる力はとても重要です。ノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎博士のように、好奇心をもって、粘り強くチャレンジし、本当に大事なことを見出す目を養ってほしいと思います。科学技術はさまざまな人類の課題の解決につながります。創造性を発揮して将来皆さんが世界で活躍することを期待しています!」と画面越しに熱いメッセージを届けてくれました。

なお、筆記競技から表彰式までの間、今大会では実施が見送られた「実技競技」に代わり、競技体験を目的とした「体験実技」の課題が掲出され、各チームがおのおの取り組み、結果をレポートで報告し合いました。また、表彰式当日から5日間、全国の代表チーム選手同士の「オンライン交流」の場も開設されました。優勝チームのキャプテン曰く「体験実技で他のチームの高記録を見て『強いなぁ!』と表彰式まで緊張が高まりました。他のチームのレポートを読み込んで、交流期間中に、戦略に至った経緯や考え方を聞いてみたい」。まさに、離れていても科学に挑み楽しむ心はひとつ。同世代のライバルほど刺激的な存在はいません。一堂に会することは叶わずとも、たくさんの切磋琢磨や交流が生まれた今大会。忘れられない「科学の甲子園ジュニア 全国大会」となりました。

第9回科学の甲子園ジュニア全国大会を支援してくださった協働パートナー一覧
協働パートナーの皆様、応援およびビデオメッセージをありがとうございました!

第10回科学の甲子園ジュニア全国大会は、令和4年12月兵庫県姫路市で開催予定です。 ※新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況により、変更となる場合があります。

〜体験実技ダイジェスト レポート〜

体験実技「紙の建築家コンテスト」

体験実技の課題は,「紙の建築家コンテスト」と題して,紙のみを使ってアッピンの箱(幅W200mm×奥行D60mm×高さH220mm)を覆う構造物を製作し,耐荷重を競うものでした。使用できる紙は、A4コピー用紙7枚以内です。紙は折ったり切ったりして構いませんが、接着剤は使用できません。おもりは約55gのナットを使い、いくつ載せられるかを競います。今回は最大30個までをチャレンジしてもらいましたが、レポートを見るとさらに多くのおもりを載せられそうなチームもありました。

体験実技の競技イメージイラスト
<競技イメージ>

事前に実験を重ねて施行した後、構造物を製作します。おもりを載せて記録にチャレンジする「耐荷重チャレンジ」では、「アッピンの箱」を構造物から抜き出してチャレンジします。構造物が崩壊したりおもりが落ちたりするまでの、おもりの個数を記録します。

  1. 本実験を重ねて、紙7枚以内で作る構造物の設計をします。
    設計を基に、アッピンの箱を覆う構造物を製作します。

    構造物製作見本

  2. アッピンの箱を抜き出して、おもりを載せていきます。
    構造物が崩壊したり、おもりが落ちたりしたらチャレンジ終了です。

    おもりを乗せた状態の構造物

今回の体験実技のレポートには,各チームが学んできた知識や技能を活用して1個でも多くのおもりを支えるための構造物を設計し,実験で検証しながら,その結果に応じた創意工夫をして課題に取り組んだ様子が表れていました。
体験実技を解説した「紙の建築家コンテスト」(解説)は、科学の甲子園ジュニアのホームページ「第9回全国大会について」にありますので、そちらもご覧ください。