国立研究開発法人 科学技術振興機構

【特別編】第3回優勝校 報告会

チームで競い、チームで学んだ「科学の甲子園」 ~三重県立伊勢高校 報告会レポート~

「第3回 科学の甲子園全国大会」(主催:独立行政法人科学技術振興機構[JST])で優勝した三重県立伊勢高等学校の代表生徒が、大会優勝までの軌跡と、特別参加した米国「サイエンス・オリンピアド2014」での成果を語る報告会が6月22日、伊勢市内で開かれました。日本と米国の科学コンテストへの参加を通じて、生徒たちはどんな経験をしたのでしょうか。記念講演の内容を含めて、報告会の様子を紹介します。

先輩の成果を受け継ぐ後輩たちにも期待

県立伊勢高校に程近い皇學館大学のホールで行われた報告会(主催:伊勢高等学校、共催:三重県教育委員会、JST)には、科学に興味を持つ同校生徒や保護者、卒業生などが集まりました。
最初に、来賓として出席した三重県教育委員会の山口千代己教育長があいさつしました。
伊勢高校卒業生でもある山口教育長は、「今回の報告会を大変誇らしく、楽しみにしてきた」とし、「自分自身の力と、同じ志を持つ仲間を信じ、また指導者を信じた成果が今回の優勝だと思います」と代表チームにお祝いの言葉を述べました。
また会場の生徒たちに向けては、「この輝かしい成果を引き継ぎ、次世代につないでいくことを先輩として期待しています。伊勢高が地域の中核校として科学教育をリードし、三重県からノーベル賞やフィールズ賞の受賞者が出てくれることが私の夢」と語りました。
次に、JSTの大槻肇・理数学習推進部長が、代表生徒への祝辞と共に、JSTの科学教育支援の取り組みを紹介しました。
その一つとして2012年からスタートした科学の甲子園は、大会規模が年々拡大しており、第3回大会の都道府県選考には約6700人の高校生が参加しました。
大槻部長は、「チームで課題に取り組みながら多くのことが学べる大会。来年3月、全国大会開催地の茨城県つくば市で、皆さんにお会いできることを楽しみにしています」とメッセージを送りました。

サイエンス・オリンピアド2014での成果を語る生徒たち1
サイエンス・オリンピアド2014での成果を語る生徒たち2

科学好きの仲間たちと共に世界で活躍したい

続いて、科学の甲子園全国大会で優勝したチームメンバー8名(キャプテンの岡野将芳さん、竹内彼野音さん、宗田真名美さん、藤川真琴さん、前村威風さん、山下真弥さん、永野皓子さん、森順平さん)が、出場に向けた準備や全国大会での模様、「サイエンス・オリンピアド2014」での取り組みなどを、写真や映像を交えて報告しました。
県代表として3年連続で全国大会に出場している伊勢高校チームの母体は、2012年のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定を機に、従来の科学系クラブを再編してつくられたSSC(スーパーサイエンスクラブ)。今大会に向けては、生物、化学、天文、物理、数学のSSC5部門から、科学の各分野や情報、数学の得意なメンバーを選抜してチームを編成しました。
全国大会までの準備期間は、事前公開競技「Mgホバーレース」の対策に力を入れました。放課後に担当メンバーが集まり、SSCの仲間の協力も得ながら、ホバークラフトの機体とマグネシウム電池の試作を繰り返しました。
安定して進むデザインを追求した結果、大きな×状のフレームを備えたユニークな機体が完成。全国大会決勝レースでも2位の好成績を収めましたが、電池制作を担当したメンバーは、「レース前の調整時間内に完全な電池を作れなかったことが残念」と悔しさも滲ませていました。
科学の甲子園に参加した感想について、代表生徒たちは「普段の学校生活ではできない経験がたくさんできて楽しかった」「表彰式で伊勢高校の名を呼ばれたときの感動は一生忘れないと思う」「指導してくださった先生や、一緒に練習した仲間たちに感謝したいです」などとコメント。
また、「全国大会で出会った科学好きの仲間たちと、世界をステージに科学者として活躍したい」と、自らの将来に思いを馳せるメンバーもいました。

全米大会で感じた「サイエンス」の面白さ

科学の甲子園全国優勝校は毎年、米国の中・高校生向け科学コンテスト「サイエンス・オリンピアド」に特別参加しています。
伊勢高校の代表チームは、フロリダ州で5月に開かれた第30回記念大会に出場し、4つの競技と交流イベントに参加、全米の科学好きの生徒たちと親交を深めました。
伊勢高校チームが挑戦した競技の一つ「Write It Do It」は、紙コップやストローで作られた所定の物体を観察し、絵図を使わず言語だけで説明文を作成、別室のメンバーがそれを読んで物体を再現するというものです。
参加したメンバーは、「この競技はNASAの宇宙飛行士訓練にも採用されている内容。言語による情報伝達の難しさと、観察によって得られる情報量の多さにあらためて気づかされました」と振り返りました。
このほか、各チームが手土産を交換し合う交流イベント(Swap meet)や、開催地周辺の科学関連施設の見学にも参加した伊勢高校チームは、表彰式で「グローバル・アンバサダー・チーム賞」を受賞。米国の生徒たちも、競技での健闘と国際交流への貢献を讃える大きな歓声を送っていました。
報告会では、「架空の犯罪現場の遺留物を分析し、真犯人を推理する実験競技"Forensics"など、学校の授業や部活動とは異なる実験が多くできて楽しかった」という声のほか、「米国大会では、科学の甲子園以上に多分野の知識が求められた」という感想も。
今後国際的な科学コンテストで好成績を上げるためには、「自分の得意分野だけでなく、科学全般、さらには生活の中で必要になる幅広い知識を吸収する姿勢を持つことが大切だと感じました」と話していました。
報告会を主催した同校の増田元彦校長は、「全国大会の勝因を聞かれたキャプテンが、チーム力と答えていたのが印象的。まさにチームが助け合って達成した優勝だと思います」とメンバーの絆を称賛しました。
最後に、「学校からのプレゼント」として増田校長が代表生徒と引率の橋本清教諭に花束を贈呈し、「皆さん個人だけでなく、学校の歴史にも刻まれる素晴らしい成果を上げてくれて、ありがとう」と謝意を述べると、会場の生徒や保護者からも大きな拍手が上がっていました。

学校からの花束を受け取る生徒たち
花束を手にステージ上に並んだ生徒たち

【記念講演】今日は治せぬ病を、明日は治せる医師を、京大は育てる

京都大学大学
院医学研究科副研究科長 萩原正敏教授

記念講演に登壇した京都大学大学院の萩原正敏教授

困難な病を救う、新たな薬を創り出すために

私は三重県の大安町(現いなべ市)の出身です。子どもの頃は手塚治虫の『BLACK JACK』を読み、不治の病をメス一本で治せるような医者になることを夢見ていました。
大学の医学部で学び始めて、誰にも治せない病気が現実にはたくさんあり、治療には新しい薬の開発が必要なことを知りました。
そこで学部生の頃から、研究室に出入りして、創薬につながるさまざまな実験をさせてもらいました。大学院時代には、くも膜下出血の治療で現在も使われているエリル(塩酸ファスジル)の開発にたずさわりました。
医学研究の面白いところは、こうした自分たちの研究成果が、新しい薬や治療法となって世に出て、人々の命を救えることです。以来私は、分子生物学のアプローチによる先天性疾患の治療法の確立を研究テーマにしてきました。

先天性疾患の多くはDNAの異常が原因です。2003年にヒトゲノムプロジェクトが完成し、ヒトの遺伝子は全て解読されましたが、DNAそのものを入れ替えることは現在の技術では非常に困難です。
私たちがやろうとしているのは、DNAから読み出されてきたRNAの発現レベルやパターンを化合物=薬で操作し、タンパク質合成時の異常を治療するという手法です。
例えば、染色体異常としては発現頻度の高いダウン症という病があります。近年では染色体検査による事前診断は可能になりましたが、ダウン症自体の治療法はありません。私たちは、こうした病気を治したいのです。
具体的な研究手順としては、モデル動物を使った実験を繰り返していきます。例えばオタマジャクシの染色体を操作してダウン症の状態をつくり、新たに開発した薬を使って治す。それが成功したらマウスを用いて実験し、イヌやサルでの実験、さらには人間での臨床試験へと進んで、新しい薬として世に出ることになります。

結果の追求だけでなく、過程も大切にしてほしい

遺伝子を操り、化学の化合物をつくり、新しい病気の治療法を確立する。こうした研究プロセスでは、化学、物理、数学、生物などあらゆる知識を総動員します。感性、アートに属する領域もありますから、先端の科学研究とはいわば「総合芸術」なのです。
皆さんの発表の中で、科学の甲子園やサイエンス・オリンピアドでは、複数分野の知識が必要という話題がありました。これは、こうした競技が現代の科学研究を模しているからであり、実際の研究で通用する能力を養っていると思います。
もう一つの重要な視点は、現代の科学研究は完全なチームプレーで、いかに高い能力を持っていても個人では大きな成果を上げられないということ。科学の甲子園のように、チームで力を合わせて課題を達成する喜びや困難を実感することは、皆さんが将来科学の道へ進む上でも、とてもいい経験になるでしょう。

講演タイトルに掲げたように、いま京都大学医学部では、基礎医学の成果と臨床医学の研究成果を結びつけ、現在は治せない病を10年後20年後には治せるようにするため、担い手となる若い人材を育てようとしています。
施策の一つに、学部生でもラボに入って研究に取り組めるプログラムがあります。大学院に入ってから研究を始めるのではなく、学部1年目からでも専門的な研究が可能で、実際に参加している学生がたくさんいます。
また、来年度から入試制度も変更します。学部によっては学力検査以外のテストや面接も取り入れ、高校での活動内容や成果をきちんと評価しながら、カリキュラムへの適合度を判定します。
サイエンスの世界は山登りに似ています。一つの頂を極めると、その先に次の山が見えてくる。誰より早く登ることも大切ですが、ときにはゆっくり歩み、急いでいると見落としてしまう花や小石に目を向けることも大事です。
これは人生にも当てはまることだと思います。結果を追うだけでなく、そこに至る過程も大切にしてほしい。皆さんの人生はまだ始まったばかりです。一人一人が目指す山へ向かって、その道のりを楽しみながら、充実した高校時代を過ごしてください。